ガラス越しのライバル



 「コラッ!オレの縄張(なわば)りに侵入(しんにゅう)しているやつは誰(だれ)だ!」大きく翼(つばさ)を広げて、ガラスに映った自分の姿に体当たりしているのは、オスのジョウビタキです。

 ここは、本校にある工作室の入口です。偶然(ぐうぜん)にも、彼(かれ)のテリトリーの中に工作室が含(ふく)まれていたようで、度々やって来ては侵入者を追い払(はら)おうと躍起(やっき)になっています。

 ジョウビタキは、越冬(えっとう)のためにやって来る冬の渡(わた)り鳥です。本校でも10月下旬(げじゅん)から「ヒッ、ヒッ」と、ジョウビタキの甲高(かんだ)い声が聞こえ始めました。河川敷(かせんしき)や農耕地、低山から市街地の公園、そして民家の庭先など、様々な場所で見られるポピュラーな野鳥ですので、みなさんも目にされたことがあることでしょう。
 他の野鳥との見分け方は、背中にある対になった白斑(はくはん)です。これはオスメス共通の模様で、和服の紋付(もんつき)のように見えることから、本校の周辺では「もんつき鳥」と呼び、昔から親しまれています。

 「次は空中殺法だ!」サッと飛び上がると、「これでもくらえ!」とばかりにガラスに蹴(け)りを繰(く)り出します。10分、15分と戦いを続けると、さすがに疲(つ)れるようで桜の枝に留まって一休みしますが、口を開き何か言いたげなこの表情はどうでしょう。その上、体を細く引き締(し)め緊張(きんちょう)している様子を見ると、気が休まる時がないようです。

 北の繁殖地(はんしょくち)では、仲睦(なかむつ)まじいはずの雌雄(しゆう)でさえも、越冬期(えっとうき)には別々のテリトリーを作ります。縄張り意識が強く、カーブミラーや自動車のドアミラーなどに映る自身の姿に攻撃(こうげき)をしかける行動をしばしば見かけます。人間からすれば、馬鹿(ばか)げたことに思えますが、これは縄張りを確保し、食べ物が乏(とぼ)しい冬を生き抜(ぬ)くために備わった、彼らの習性なのです。

 傘(かさ)の柄(え)から飛び上がってキック! ほらほら、また始まりましたよ。決して勝負がつくことがないこの戦いは、彼が北に旅立つ春先まで続くことでしょう。


文責 増田 克也


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