放たれたコウノトリ


 本校から4qほど東にある、朝来市山東町三保地区のコウノトリ放鳥拠点施設(ほうちょうきょてんしせつ)の近くを通りかかると、田んぼの中に1羽のコウノトリが立っていました。この施設で今年4月に孵化(ふか)し、6月27日の放鳥式典で放たれた雌雄(しゆう)2羽のどちらかでしょう。

 田んぼから畦(あぜ)に上がったところで、足環(あしわ)を確認すると個体番号J0500、やはり4月21日生まれのオスでした。オスは落ち着いた様子で、羽の内側をつつき、次に伸(の)び上がり胸元を羽繕(はづくろ)い・・・ゆったりとした時間が流れていきます。と思った矢先に、「カラカラカラ!」と軽くクラッタリングをしました。クラッタリングとは、くちばしを打ち鳴らすことです。声を出さないコウノトリの成鳥は、クラッタリングで仲間とのコミュニケーションを図ります。

 オスがクラッタリングをした訳は、すぐにわかりました。放鳥拠点施設のケージ最上段の鉄パイプに、同じ日に放鳥された、個体番号J0501のメスがやって来たのです。メスが2度3度と、くちばしを大きく開く仕草は、何か言いたげなようでもあり、オスへのアピールのようにも感じました。

 メスはケージから飛び立ち、オスの元へ向かいます。あわや衝突(しょうとつ)しそうになるほど近づき、一瞬(いっしゅん)くちばしを絡(から)ませてから、田んぼに降り立つと、まるで挨拶(あいさつ)を交わすように、互(たが)いに翼(つばさ)を広げたり地面に伏(ふ)せたり。2羽は、大変、仲睦(なかむつ)まじく見えました。

 その後、メスがケージに向かえば、鬼(おに)ごっこのつもりなのか、 オスも後を追いかけます。2羽にとって、見晴らしのよいケージの最上段がお気に入りの場所のようで、ここから動こうとはしませんでした。

 2羽のコウノトリは、当分の間、ケージの内外を行き来し、一進一退を繰(く)り返しながら、周辺の環境(かんきょう)に順応し、少しずつ行動範囲(こうどうはんい)を広げていくことでしょう。

 昨年7月にこの施設から放たれたコウノトリは、秋まで故郷に滞在(たいざい)し、その後移動を始めました。現在は、九州各地を転々としながら、元気で暮らしているようです。
 今年の2羽も、いずれはこの地を後にし旅立つものと思われます。その日が来るまで、モノトーンのエレガントな姿で、私たちの目を楽しませてくれることでしょう。

文責 増田 克也

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