ようこそ湛水田へ


 雪の朝、3羽のコチドリが丸くなって佇(たたず)んでいました。ここは、本校からほど近い、コウノトリの放鳥拠点施設(ほうちょうきょてんしせつ)が設けられた、山東町三保区の田んぼです。
 この周辺では、田んぼの生き物を増し、農薬の使用を抑(おさ)えて、安全な稲作(いなさく)を図る「コウノトリ育む農法」に基づいて、2010年から冬に田んぼへ水を張る、冬期湛水(とうきたんすい)が行われています。コチドリたちは、その湛水田(たんすいでん)にやって来たのです。

 コチドリは、スズメより少し大きく、顔や首にある黒いラインがよく目立つチドリの仲間です。本校の周辺では、田植えの準備が始まる、4月ごろから姿を見せる野鳥なのですが、昨年の秋に水が張られるとすぐに現れて、今ではたびたび目にする身近な存在になりました。

 羽と脚(あし)をぐーんと伸(の)ばして、さあ行動開始です。田んぼの中を、本家本元の千鳥足でちょこまか歩き、ピタッと停止して土にくちばしを入れたかと思うと、すぐに方向を変えて、タッタッタと駆(か)け出します。
 とてもすばしっこいので、何を捕(と)っているのかさっぱりわかりません。たくさん連続撮影をして確認すると、1コマだけ小さなミミズのようなものをくわえている写真がありました。どうやらコチドリは、田んぼの中に潜(ひそ)む虫などの生き物を捕っているようです。

 湛水田にやって来るのは、コチドリだけではありません。こんもり積もった雪の陰(かげ)に隠(かく)れているのは、長いくちばしを持つシギの仲間、タシギです。こちらも程なく、模様が入ったラグビーボールのような体を動かして食べ物を探し始めました

 その他には、羽を広げるとどことなくカモメ風なケリ。グレーと白のツートーンカラーでシックな色合いのクサシギ。ほぼハト大、カモの中では一番小さいコガモなどが見られます。
 ケリを除くこれらの野鳥は、いずれも冬期湛水が行われる以前には、この辺りの田んぼではほとんど目にすることがなかったものばかりです。

 野鳥たちをこんなにも惹(ひ)きつける湛水田は、きっと食べ物が豊富なのでしょうね。さあ今度は、どんな野鳥が見られるでしょうか、願わくは、コハクチョウなど、大型の水鳥に来てほしいものです。
 さらに、この地で誕生し放鳥された、今は宮崎県宮崎市熊本県八代市など、九州方面に移動している*コウノトリが帰郷してくれたら、言うことなしです。

 湛水田に集まる野鳥たちを観察しながら、あれやこれやと、少し贅沢(ぜいたく)な希望が頭を過(よ)ぎるのでした。

*コウノトリは繁殖年齢(はんしょくねんれい)の4歳(さい)ごろになると、帰郷するケースがあるそうです。

文責 増田 克也

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