ノスリのいる風景


 今年もノスリがやって来ました。ノスリはタカの仲間で、本州の中部以北では繁殖(はんしょく)をし、一年を通して生息していますが、関西では冬季限定の渡(わた)り鳥です。
 通常、数が少ないタカの類には、おいそれとは出会えません。ところがこのノスリに至っては、「またノスリか・・・」とため息が出るほど、日に何度も見られることがあります。しかし、それは但馬でも北部のことで、どういう訳か、但馬南部の本校周辺では極端(きょくたん)に少なく、全く見られない年もあるほどです。近年、そのノスリが2年続けて姿を現し、今年も越冬(えっとう)する様子をみせています。

 それでは、上の写真をご覧ください。画面中程の柿(かき)の木のてっぺんにある、白っぽいものがわかるでしょうか。実はこれがノスリです。去年と同じ場所、同じ木でばったり出会ったのには驚(おどろ)きました。

 柿の木にノスリを見つけてから、10分、15分と時間が経ちましたが、飛び立つ気配はなく、時折、首を動かしています。いったい何をしているのでしょう。ノスリは、山際に広がる田んぼが一望できる柿の木で、昆虫(こんちゅう)やネズミなどが出てくるのを、じっと待ち伏(ぶ)せしているのです。つまり、この木は食べ物を探すための見張り台なんですね。

 次に、ノスリとの距離(きょり)を、じわりじわりと少しずつ詰(つ)めていくことにしました。どこまで近づけるでしょう。ノスリの警戒心(けいかいしん)は個体によって大きく異なり、遠くからこちらの動きを察知して、すぐに飛び出すものもあれば、とまっている木の下を歩いても知らん顔しているものまで様々です。さて、今年のノスリはいかがでしょうか。

 さあ、接近開始です。およそ40mまで近づくと、胸や腹のクリーム色がはっきり見えて、この鳥がカラスやトビではないことがよくわかります。ここまで、ノスリは私を気にしている様子はありません。さらに接近して距離は30mほどでしょうか。すると、羽繕(はづくろ)いの動作を急に止めて、向き直りました。どうやらこちらを警戒しているようなので、近づくのはここまでとし、ノスリが獲物(えもの)を見つけて飛び出すのを待つことにしました。

 それから約20分後、突然(とつぜん)、枝を蹴(け)って飛び出したのは、正面の田んぼではなく、全く逆方向の山裾(やますそ)でしたので、この場所からは欠片(かけら)も見えません。残念に思う間もなく、そのわずか数秒後、ノスリは再び山裾から舞(ま)い上がり、道路脇(どうろわき)の電柱にとまりました。しかし、その足元には獲物を捕(と)らえた様子はなく、今回の狩(か)りは失敗に終わったようです。

 しばらくの間、ノスリは電柱から辺りを見回していましたが、下を通った車に追い立てられるように飛び立ち、向かいの山に姿を消し去りました 。

 ノスリのいる風景、冬の山里によく似合います。最後に、別の角度から撮影(さつえい)した、見張り台とノスリが暮らす環境(かんきょう)を写し込(こ)んだ写真を、下に掲載(けいさい)して、今回の締(し)めくくりとします。

文責 増田 克也



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