アキニレに集合!


 秋が深まりはじめたころから、30羽前後のアトリの群れが本校に居着くようになりました。チュクチュクと複雑な声が近づいて来たかと思うと、頭上を旋回(せんかい)して、生活棟(せいかつとう)や朝来山の麓(ふもと)を飛び回っています。

 アトリはスズメより少し大きい程度の渡(わた)り鳥で、ロシアやシベリアなど北国の繁殖地(はんしょくち)から、越冬(えっとう)のために、海を越(こ)えて日本へやって来ます。渡ってきた当初は、山にいますが、そのうち農耕地や、河川敷(かせんしき)などの平地に下りてきて、植物の種や木の実などを食べ、冬を群れで過ごします。当地では、アトリのことを“タマスズメと呼び、昔から親しまれている野鳥です。

 先日、アトリの群れが本館のすぐ近くまでやって来て、せっせと食事を始めたので、そっと様子をうかがいました。アトリたちは中央階段のすぐ脇(わき)にあるアキニレの種を一心についばんでいます

 観察していると、食べ方にも一羽一羽の個性があり、いろいろな表情を見せてくれます。このアトリは近くの種を食べ尽(つ)くすと、丸い体を伸(の)ばせるだけ伸ばして、遠くにくちばしを向けています。足で束ねて掴(つ)んだ枝から、体を安定させようと力を込(こ)めて踏(ふ)ん張っている様子がうかがえます。
 こちらのアトリはおぼつかない足取りで、細い枝をロープのように伝い降りてきます。目的はもちろん枝先の種ですが・・・危ない!うっかり足を滑(すべ)らせてしまいました。でも心配御無用(しんぱいごむよう)、そこは鳥のことですから飛べばいいのです

 ところで、アトリの色に2つのタイプがあることに気づかれたでしょうか。個体差はありますが、頭が黒く全体にはっきりとした色のものがオス、そしてグレーの頭に淡(あわ)いシックな装いがメスです。オスはこれから春にかけて、さらに頭が黒くなり繁殖に向けた羽に変化します。

 アキニレの枝で種を食べるアトリばかりに気を取られていましたが、いくらか地面に降りているものがありました。どうやら、下に落ちた種を拾っているようです。
 三脚(さんきゃく)からカメラを外して、地面に這(は)いつくばり静かに待っていると、こちらに向かって徐々(じょじょ)に近づいてきました。植え込みの草陰(くさかげ)から見え隠(かく)れするアトリのくちばしにくわえられていたものは、アキニレではなくプロペラ状の羽があるイロハモミジの種です。中には大胆(だいたん)にも、身を隠す場所がない、土で舗装(ほそう)された通路に出てきて種を探すものもいます。

 本校のアトリたちは、目と鼻の先にある大屋根広場の周辺で、子どもたちが活動していようがどこ吹(ふ)く風。食事に精を出す姿は、すっかり安心しているように見えましたが、何かの拍子(ひょうし)に1羽が飛び出せば、群れは一斉(いっせい)に後へ続いていきました。私には、何がアトリたちの気に障(さわ)ったのか全く理解できません。そこには、ただ先ほどと同じ時間が流れているだけです。
 
 群れが去った後、枝先を見上げれば、まだたくさんの種が残っています。アキニレは落葉した後も種が残るので、この先しばらくの間は、アトリたちに食べ物を与(あた)えてくれそうです。


文責 増田 克也


“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください