枯れ野に赤い鳥


 高い山の木々は赤や黄色の葉を落とし、各地から雪の便りも聞こえ始めました。ヒタヒタと迫(せま)る冬の足音に、体が震(ふる)え上がる思いです。そんな色彩(しきさい)に乏(とぼ)しい季節にあって、赤い小鳥に出会えたら素敵だと思いませんか。

 今回の自然のページは、寒くなると北の地から越冬(えっとう)にやってくる赤い小鳥、ベニマシコを紹介(しょうかい)します。

 「フィフィ、フィフィ、フィッホ」ベニマシコの声は、風でも吹(ふ)けばかき消されてしまいそうなほど、小さく慎(つつ)ましいものですが、最後の「フィッホ」の一節が特徴的(とくちょうてき)なので、すぐにそれだとわかります。
 その「フィッホ」が、こんな河川敷(かせんしき)の茂(しげ)みや、山際の藪(やぶ)などから聞こえたら、その辺りに腰を下ろして気長に待ってみてください。運が良ければ、大きさはスズメほどのスマートなベニマシコが草の茎(くき)を登って来るでしょう。赤い色はオスメスは茶色っぽい体色です。

 彼(かれ)らの目的は先端(せんたん)にある種や実です。セイタカアワダチソウのてっぺんで、まだ若い種を食べ始めました。しばらくすると場所を変えて、今度はアメリカセンダングサと思われる、種がたくさん付いた枝に移動して、すぐさま食べるかと思えば、急に飛び去ってしまいました。姿が露(あら)わになる高い位置では大変用心深くなり、少しでも不安を感じると、たちどころに身を隠(かく)してしまいます。

 その点、草むらや茂みの中は安全ですから、案外近くで観察できることがあります。この日は、7mほどの距離(きょり)まで接近を許してくれました。静がに見ていると、首筋が痛くならないかと心配になるほど大きく首を傾(かし)げて、足元のイノコヅチに何度もくちばしをやり、次に体勢を入れ替(か)えては再び食べます。
 ひとしきり食べると納得したように、茂みの中を移動していきます。その途中(とちゅう)で、くちばしの先に付いた食べかすが気になったのでしょう。頭をブルブルと回転させて振(ふ)り落とし、羽をパタパタ。愛嬌(あいきょう)あふれる姿を見せてくれました。

 午後4時を過ぎると日は西に傾(かたむ)き、ベニマシコをいっそう赤く照らします。この日の終わりには、オスが2羽現れツーショットで写真を撮(と)らせてくれました。

 枯(か)れ野を彩(いろど)るベニマシコ。冬を越(こ)し、春に北へ向かって旅立つ日まで、その赤い色で目を楽しませてくれそうです。

文責 増田 克也


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