久しぶりにキツネ


 キツネのことはよく分からなくても、名前を知らない人はまずいないでしょう。日本には北海道に生息するキタキツネと、本州、四国、九州に分布するホンドギツネの2亜種がいますが、本校周辺で単にキツネと呼ぶ場合はホンドギツネを指しています。

 では、上の写真を見てください。ピンと立った三角の耳や、尖(とが)った口元などは、どこか日本犬を思わせる風貌(ふうぼう)です。それもそのはず、キツネはイヌ科の動物で、ニホンオオカミが絶滅(ぜつめつ)した現在、当地で見られる野性のイヌ科は、ホンドタヌキとこのホンドギツネの2種類のみです。

 里山など、人の生活圏(せいかつけん)で暮らすキツネと人間の関係は、昔から密接なものでした。それは民話などに、度々登場することをみてもよくわかります。民話では、その賢(かしこ)さ故に、人を騙(だま)す悪役としての設定が多い一方、五穀豊穣(ごこくほうじょう)、商売繁盛(しょうばいはんじょう)の神様として神社に奉(まつ)られるなど、両極端(りょうきょくたん)の扱(あつか)いを受けたのもキツネです。
 今でも、キツネのマスコットやキャラクターグッズが多数存在するところをみると、私たち現代人の中にも、キツネに対する親近感が未だに息づいているのではないでしょうか。

 そのように身近なキツネですが、近年、本校の周りで姿を見る機会がめっきり少なくなりました。以前は、養鶏場(ようけいじょう)の周辺を徘徊(はいかい)する姿や、自動車のライトで浮(う)かび上がる、夜道を突然(とつぜん)横切る大きなシッポ、また、雪に残る一直線に延びた足跡(あしあと)などでその存在を知ることができましたが、この頃(ごろ)、全く気配がありません。いったいどこへ行ってしまったのでしょう。
 そんなことを考えていた矢先、春頃から同じ個体と思われるキツネに何度か出会うようになり、先日、写真を撮(と)ることができましたので紹介(しょうかい)したいと思います。

 キツネに出会うのは、いつも午後7時を過ぎてからです。この日は、なぜか休耕田のまん中で寝(ね)ているではありませんか。まさかキツネだけにタヌキ寝入りということはないでしょうが、カメラを向けて少しシャッターを切ると、薄目(うすめ)を開けてこちらの様子を伺(うかが)っています。

 一般的(いっぱんてき)にキツネは、神経質で警戒心(けいかいしん)が強い動物ですが、この個体は少し変わっているのでしょうか、それとも、度々出くわす私のことを認識して、「またあいつか・・・変な人間がやって来たぞ」とでも思っているのか、逃(に)げ出す様子もなく、胴体(どうたい)とシッポで円を描(えが)くように丸まりリラックスしています。

 いくらか時間が流れた頃、それでもキツネはすっくと立ち上がりました。山の方に駆(か)け出すかと思えば、地面へ向かって一直線。いきなり鼻面を田んぼに突(つ)っ込(こ)みました。「ネズミでも捕(つか)まえたか・・・」固唾(かたず)を呑(の)んで見守りましたが、今回は何も捕(と)れなかったようです。頭を上げて、一瞬(いっしゅん)、ばつの悪そうな表情を見せると、スタスタと駆け出しました

 キツネはこちらとの距離(きょり)をある程度あけると、決まって立ち止まりふり返ります。それは、こちらが追いかけてこないか警戒(けいかい)をしているのでしょうが、この仕草が別れの挨拶(あいさつ)をしてくれているように思えます。

 さあ、次の出会いには、どんな姿を見せてくれるでしょうか、滑(なめ)らかに身体をしならせ、風のようにいくつも田んぼの畦(あぜ)を越(こ)えて駆け抜(ぬ)けて行く、キツネの後ろ姿を見送りました。

文責 増田 克也



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