風物詩に異変あり


 毎年、4月に入るとノビタキがやって来ます。ノビタキは春に東南アジアなどから、本校の周辺を通過し、本州中部より北の繁殖地(はんしょくち)を目指して旅をする渡(わた)り鳥です。
 その年の秋には繁殖を終え
たノビタキが、今度は春とは逆に越冬地(えっとうち)に向けて、南下していきます。つまり、当地におけるノビタキの存在は、春と秋に季節の到来を告げる風物詩なのです。

 今春、そのノビタキに異変がありました。いつもの年なら、田んぼや河川敷(かせんしき)に出かければ、遠くからでも、パラパラと動く数羽のノビタキを確認できるのですが、どういう訳かまったくその気配がありません。

 今年、初めてノビタキに出会えたのは、天気予報が台風並みに発達した低気圧の接近に警戒(けいかい)を呼びかけていた、4月7日のことでした。田んぼの畦(あぜ)に伸(の)びた、スイバの茎(くき)に掴(つか)まり、強い風に翻弄(ほんろう)させるオスの姿がありましたが、朝から夕刻まで探して、この1羽だけでした。

 翌日、8日も同じ個体と思われるオスが田んぼの周辺に留まり、宙を飛ぶ虫を追いかけていました。その後、ノビタキの姿は途絶(とだ)え、次に確認できたのは13日。田んぼの中で大きなイモムシを捕(と)らえたオスと、この日初めて淡い色のメスが見られました。

 毎年、4月の中旬(ちゅうじゅん)には、日に十数羽ほどが見られるピークとなりますが、今年は、花が散った桜の枝に佇(たたず)む姿を確認した21日まで1羽も見られず、結局これが最後となり、5月に至りました。

 この時期には例年なら、フィールドに出る度に、少なくとも2羽や3羽のノビタキが見られるのが普通(ふつう)ですので、今年はいくら何でも少なすぎます。

 どうしてノビタキの数が減ってしまったのでしょう。昨年と比べて、本校周辺の環境などに変化はありませんので、今春に限った一過性のものだと思いましたが、念のため、但馬北部で野鳥を観察している方々に問い合わせると、いつもの春と変わらないとのことでした。
 
 今後、繁殖を終えて、秋に越冬地に向け南下する、ノビタキの数に異変がないか注意深く観察したいと思います。

文責 増田 克也


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