ヒレンジャク再び


 よく晴れた早朝のこと、本校の周辺を見回っていると、50メートル以上離れた電線に、11羽のヒレンジャクが留まっていました。丸く膨(ふく)らませた身体に朝日を浴びせ、暖を取っている様子です。1月に出会った同じ群れなのか、定かではありませんが、近年全く見られなかった、ヒレンジャクに二度も出会えるところをみると、今年は渡来数(とらいすう)が多い、すなわち“当たり年”ではないでしょうか。

 ヒレンジャクは、何度見ても飽(あ)きることがない、個性的な出で立ちをしています。高い電線にとまる姿を首が痛くなるほど見上げていると、近くにある2メートルほどの柿(かき)の木に、1羽2羽と降りてきては、口を半開きにして、「チーィ」と、外見に似合わない、か細く甲高(かんだか)い声を上げました。

 群れの1羽が、地面に降り立ち、時に首を傾(かし)げながら、まるで落とし物でも探すように下を見つめています。次の瞬間(しゅんかん)、電線で丸まっていた姿からは想像が付かないほど、首と身体を目一杯(めいっぱい)伸(の)ばして、草の中に頭を突(つ)っ込(こ)み、もがくこと2、3秒、頭を上げたヒレンジャクのくちばしには、青い実がくわえられていました。これは、別名リュウノヒゲとも呼ばれる多年草、ジャノヒゲの実です。

 そうこうしている間に、他のものも地面に降りてきて、実を探し始めました。こちらは、さながら草の中にダイビングでもするかのように、先端(せんたん)が赤い尾羽(おはね)を旗印のごとく高々と上げ、両方の羽をばたつかせています。

 これは、後に連続撮影(れんぞくさつえい)した写真を見て気付いたことですが、ヒレンジャクは実を食べる際に、くちばしにくわえた実に、舌を宛(あて)がって、吸盤(きゅうばん)で吸い付けるように喉(のど)に送り込んでいます。別のカットでも、@くわえる、A舌を宛がう、B呑(の)み込む、という具合です。
 この食べ方は、ヒヨドリなどがよく見せる、くちばしにくわえたものを空中へ放り投げ、キャッチして食べる動作とは異なります。とは言っても、数年前に撮影したヒレンジャクの写真を見返すと、放り投げて食べているとも取れるものがありました。このことから、実の大きさや形状によって食べ方を変えているのでしょうか。現段階では明確なことは言えませんので、今後、観察する上での課題にしたいと思います。

 1月には柿の実を食べていたヒレンジャクたち、冬の間に周辺の木の実を食べ尽(つ)くしたのか、今回は草の実に狙(ねら)いをつけたようです。食べ物がなくなればこの地を後にして、近いうちに北の繁殖地(はんしょくち)へ向けて旅立つことでしょう。

 この日、ヒレンジャクが実を採る近くでは、モズのペアが仲睦(なかむつ)まじく寄り添(そ)い、セグロセキレイは交尾(こうび)をしていました。季節は春本番へ向かって着実に動いています。

文責 増田 克也
 



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