ブルブル、スタスタ


 この冬も、本校近くの田んぼにタゲリがやって来ました。タゲリはハトほどの大きさで、中国やチベットなどから越冬(えっとう)のために日本へ渡(わた)るチドリの仲間です。以前、当地では10年以上も見かけない時期がありましたが、このところ何年か続けて飛来(ひらい)しては、そのユニークな姿を見せてくれます。
 何がユニークかといっても、やっぱり頭からアンテナのように伸(の)びる、飾(かざ)り羽でしょう。この飾り羽は表情が豊かで、時には二つになって頭の上でVサインを出したり、風になびいて風向計になったりもします。

 今年、初めてタゲリに出会ったのは、まだ朝日が顔を出す前で、田んぼから蒸気が立ち上る頃(ころ)でした。辺りはまだ薄暗(うすぐら)く、見通しが良くありませんでしたが、こんなに特徴的(とくちょうてき)なタゲリを、他のものと見間違(みまちが)えるはずはありません。

 光が田んぼのすみずみまで行き届くのを待って、さあ観察開始です。まずはこの写真をご覧ください。タゲリが田んぼに突(つ)っ立っているだけに見えますが、足元は「休め!」の号令が出ているかのように、左脚(ひだりあし)を前に出し静止しています。この姿勢で脚をブルブルと小刻みに動かし、その振動(しんどう)で驚(おどろ)いて飛び出した虫などを捕(と)らえる作戦です。
 一度、獲物(えもの)が目にとまるとスイッチオン! 急にスタスタ、思いも寄らない方向へ駆(か)け出し、深々とお辞儀(じぎ)でもするように、短いくちばしを田んぼに差し込(こ)みます。この「ブルブル、スタスタ」の行動を何度か繰(く)り返す内に、おや、くちばしに何かを捕らえましたよ。写真を拡大すると、しっかり虫をくわえています

 食事の後は羽繕(はづくろ)い。腰(こし)の辺りから分泌(ぶんぴつ)するオイルをくちばしで取り、全身に塗(ぬ)って羽のコンディションを整えます。中でもくちばしが届きづらい喉元(のどもと)のお手入れは大変そうで、見ているこちらも首筋が痛くなりそうです。

 そうこうしている間に、山間の田んぼにも、冬の低い日差しが入り込み、タゲリの身体を照らします。するとどうでしょう、まるで衣装替(いしょうが)えでもしたように、青とも紫(むらさき)とも表現し難い複雑な色合いに変化して、美しいの一言です。

 実は、この羽色を見たいがために太陽を待っていたのです。この冬、錦(にしき)をまとい頭には羽根飾りを付けた“冬の貴婦人”が目を楽しませてくれそうです。

文責 増田 克也



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