スズメとカラス



 小雪がちらつく中、日頃(ひごろ)からスズメが集まる場所へ立ち寄ってみました。すると、案の定、今日もいました。資材置場に捨てられたオイル缶(かん)の縁(ふち)に10羽余りが並んでとまる様子は、さながら、旅行先で集合写真のシャッターを待っている団体さんのようです。それでは、遠慮(えんりょ)なく、ハイチーズ「パチリ!」

 ところで、なぜスズメたちはこんな隊形でいるのでしょう。それは私が原因です。つい先ほどまで、田んぼの中で餌(えさ)を採っていた群れに近づいたため、一気に飛び立ち、資材置場へ逃(に)げ込(こ)んだのです。避難先(ひなんさき)はオイル缶だけではなく、トタンの上にもたくさんとまっています。
 食事中に気の毒なことをしたと思いましたが、遠くまで飛び去ることなく、餌場(えさば)の隣(となり)にある資材置場で、こちらの出方を伺(うかが)っている辺りが、スズメのちゃっかりしたところです。

 さて、それでは根比べです。スズメが田んぼへ帰ってくるのを待つことにしました。その場で動かず静かにしていると、根を比べる間もなく、1羽、3羽、10羽・・・次々に田んぼに戻っては、餌をついばみ始め、中にはリラックスして頭を掻(か)くものなど、群れに穏(おだ)やかな時間が流れて行きました。

 スズメの田んぼを後にして、川沿いに延びる道路を通りかかると、遠くにたくさんのカラスがうごめいています。確認のために近づくとカラスは一斉(いっせい)に飛び去り、後にはニホンジカの死体が浮(う)いていました。
 見たところ、昨年生まれたものでしょうか、まだ成体としては小ぶりです。おそらく何らかの事故で命を落としたものと思いますが、カラスにとってはとびっきりのご馳走(ちそう)に違(ちが)いありません。

 ここでもスズメの時のように、カラスが戻って来るのを待ってみました。しかし、警戒心(けいかいしん)の強いカラスはいくら待っても姿を現しません。それなら、作戦を変更(へんこう)して、一旦(いったん)この場を立ち去ることにしました。40メートルほど距離(きょり)を置いたところでふり返ると、どこで見ていたのか、既(すで)にカラスが群がっています

 では、この位置から再びカラスに接近を試みます。時間をかけて少しずつ距離を詰(つ)めていくのはもちろんですが、決してカラスを直視せず、意味もなく空を仰(あお)いだり、時には手元を見て何か作業をするふりをしたりと、一貫(いっかん)して無関心を装います。
 じわりじわりと接近してどうにか撮影(さつえい)しましたが、写真の奥(おく)に写る2羽は、カメラを向けた途端(とたん)に警戒し、こちらに背を向け、既に逃げる構えを見せています。全てが飛び立つ前に、大きく写るカメラに持ち替(か)え数コマ撮影して、その場を後にしました。

 最後に撮(と)った写真を改めて眺(なが)めると、ニホンジカの形相や、死体に群がるカラスの有様は、見た目には決してよくありません。しかしながら、自然の営みに人間の視点や感情を持ち込(こ)むのは禁物だと、改めて感じるのでした。

文責 増田 克也



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