チョウゲンボウ来る


 本校の西側を南北に走る、国道312号に沿って立てられた電柱に、カラスより一回り小さい程度のスマートなシルエットが目に付きました。電線の一番上に張られた、雷避(かみなりよ)けの架空地線(かくうちせん)にとまり、自動車がすぐ下を行き交おうと、気にする様子は全くありません。

 急いで、双眼鏡(そうがんきょう)で確認すると、そこには背筋をピンと伸(の)ばし遠くを見つめる、オスのチョウゲンボウの姿がありました。チョウゲンボウは獲物(えもの)を探しているようで、あちらこちらを見回していましたが、右脚(みぎあし)で何度か目元を掻(か)く仕草を見せると、向かい風にふわりと浮(う)かび上がり、一直線に田んぼが広がる方向へ飛び去りました。

 チョウゲンボウは、冬に見られる渡(わた)り鳥で、農耕地や河川敷(かせんしき)の見晴らしが利く場所から、小動物や昆虫(こんちゅう)、小鳥などを探して捕(と)らえる猛禽類(もうきんるい)です。
 その、よほど鳥らしくないチョウゲンボウという名前は、漢字で「長元坊」と書くそうですが、早速、気になる由来を調べてみました。すると、たくさんの説があり、そのほとんどが漢字の「坊」の文字が示すように、お坊さんに関するものでした。

 さて、飛び去ったチョウゲンボウはどこへ行ったのでしょう。双眼鏡で電柱や店舗(てんぽ)の高い屋根を、ひとつひとつ丹念(たんねん)に探してみると、円山川の河川敷を見渡せる、シダレザグラの枝にとまっていました
 チョウゲンボウは、眼下に広がる河川敷を見つめて、獲物探しに余念がありませんでしたが、接近した私が多少は気になるようで、時にはこちらに目線を向けます。そうこうしている間に、枝を蹴(け)りサッと飛び出しました

 行った先は、河川敷とは逆方向にある原っぱでした。地面に降りたところを収めようとカメラを向けましたが、ピントが大きく外れてしまいました。ピント合わせに手間取り、慌(あわ)てふためいている間に、チョウゲンボウは高い電線へ舞(ま)い上がり、しきりに足元を気にしています。電線を握(にぎ)りしめた脚から、くちばしで引き出したのは、大きなイモムシでした。それをツルッと平らげると、何事もなかったように飛び出し、そのまま行方(ゆくへ)知れずとなりました。

 チョウゲンボウの余韻(よいん)も冷めやらぬ間に帰路に着くと、未だに熟した実をたくさん付けた柿(かき)の木に、先日出会ったノスリが佇(たたず)んでいました。今年の冬は、思いがけず2種類の猛禽が越冬(えっとう)し、本校周辺はいつになく賑(にぎ)わいをみせています。

文責 増田 克也



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