2羽のノスリ


 思わぬ積雪となった初雪が、いくらか残る本校の周辺を散策していると、山裾(やますそ)にあるネムノキにとまる1羽の鳥が目に入りました。

 うっかりトビと間違(まちが)えそうになりましたが、これは冬の渡(わた)り鳥でタカの仲間、ノスリです。ノスリは、本校から車で1時間、但馬北部の豊岡市(とよおかし)まで出向けば、1日で何度も見かけるため、それほど珍(めずら)しい野鳥ではありません。
 ところが、豊岡市と同じ但馬でありながら、南部の本校周辺ではノスリが極端(きょくたん)に少なく、全く見られない年がほとんどです。それ故に、今回の地元での出会いは喜びも一入(ひとしお)というものです。

 さて、このノスリですが、タカの仲間とはいうものの、ご覧のとおり、ずんぐりとした体つきと、冴(さ)えない体色から受ける印象は、精彩(せいさい)に欠けています。そのためか、ノスリのことを方言で“くそとび(糞鳶)”や“まぐそだか(馬糞鷹)”などと、いかにも、うだつが上がらない名前で呼んでいる地方もあるほどです。

 それなら、汚名返上(おめいへんじょう)。ノスリが正面を向いた写真を大きく切り出してみると・・・う〜ん、精悍(せいかん)なオオタカには遠く及(およ)びませんが、くちばしに付いた土も勇ましく、どうして立派な猛禽(もうきん)じゃないですか。

 ノスリは程なく飛び立ち姿を消したので、集落へ足を向けることにしました。細い路地をいくつか抜(ぬ)けると、民家の庭木にキジバトが羽を休めています。この鳥こそ、身近すぎて普段(ふだん)は気にも留めませんが、余りにも近くにいたので、そっとカメラを向けてみました。
 するとどうでしょう、控(ひか)え目ながらも味わい深い色を持つ、うろこ模様の羽が美しく、まるで掛軸(かけじく)から抜け出してきたようで、情緒(じょうちょ)にあふれています。キジバトはシャッターの音が気になったのか、伸(の)びをひとつ。その表情は、眠(ねむ)たそうにも、不機嫌(ふきげん)そうにも見えました。

 集落の外れまで来ると、墓地に植えられたキリの横枝にとまるノスリを、再び見付けました。望遠レンズを付けたカメラに持ち替(か)えてファインダーを覗(のぞ)いたところ、これは、胸や頭の模様が先ほどのものとは異なるため別個体です

 ノスリは墓地周辺の地面ににらみを利かせ、ネズミやモグラなどの獲物(えもの)を探しています。どれほど時間が経ったでしょう。突然(とつぜん)、タイ舞踊(ぶよう)のダンサーように首をくねらせて狙(ねら)いを定めると、素早く斜面(しゃめん)に降り立ちました。しかし、その足には何も掴(つか)んでいません。狩(か)りは失敗に終わりました。
 ノスリは大きく羽ばたき舞(ま)い上がり、こちらに翼の内側にある白い斑紋(はんもん)を見せながら、民家の屋根を越(こ)えて行きました

 今年の冬は、ノスリが2羽も来ています。このまま、本校の周辺に定着して、春の旅立ちまで目を楽しませてほしいものです。

文責 増田 克也



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