ケヤキの幹で食事会


 本校の玄関口(げんかんぐち)、子どもたちを乗せたバスが到着(とうちゃく)するエントランス広場に、高さ7メートル程のケヤキがあります。ところがこの頃(ごろ)、元気がありません。葉は早くに落とし、幹にはいくつもキノコが生えて、害虫が入ったと思われる穴からは、茶色い樹液が流れ出しています。残念ですが、ここまで症状(しょうじょう)が進むと、完全に枯(か)れてしまうのも、もはや時間の問題でしょう。

 そんなことを考えながら、朽(く)ち始めた幹を隈無(くまな)く見回すと、上の写真にある赤い腹の虫が、半分干からびたイモムシを、えっちらおっちら上へ上へと引き上げていました。「おや、これは変わったアリだな・・・?」右側に回り込(こ)んで改めて見ると、アリではありません。それが証拠(しょうこ)に、長い口をイモムシに差し込んでいます。

 この虫は、ヨコヅナサシガメというカメムシの仲間で、まだ幼虫です。幼虫と言えども、虫を捕(と)らえ長い口で刺(さ)して体液を吸う、動物食の昆虫(こんちゅう)ですから、安易に触(さわ)らない方が無難です。
 以前、首筋を刺され、傷口がジクジクして一週間も痛みが続いた苦い経験がある私は、撮影(さつえい)するのも慎重(しんちょう)にならざるを得ません。

 イモムシを引き上げるヨコヅナサシガメの幼虫に、どこからともなく現れたもう1匹(ぴき)が加わると、あれよあれよと言う間に3匹(びき)が集まり、総勢5匹(ひき)による食事会に発展しました。

 ヨコヅナサシガメの幼虫は、樹木にできた隙間(すきま)などに集団で越冬(えっとう)して、翌年の春に成虫になります。その際、脱皮(だっぴ)した直後の成虫は、全身の大部分が赤く、時間が経つにつれて、黒く変色すると聞きます。刺されるのは二度とごめんですが、真紅に輝(かがや)く純粋無垢(じゅんすいむく)なヨコヅナサシガメを、是非(ぜひ)とも見てみたいものです。

文責 増田 克也



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