愛想良しの軽業師

 子どもたちが宿泊(しゅくはく)する、生活棟(せいかつとう)の周辺に広がる林に、1羽のエゾビタキがやって来ました。大きく陽が傾(かたむ)く午後4時を過ぎると、横枝にちょこんととまっている姿を見かけます。

 目立たない地味な色合いのエゾビタキですが、身体の割りに大きくまん丸い目がチャームポイントです。また、それほど人を恐(おそ)れないので、じっくりと観察させてくれるのも魅力(みりょく)のひとつです。

 そんなエゾビタキは、いったいどこから南但馬自然学校にやって来たのでしょう。実は、初夏に繁殖(はんしょく)をする北の国、カムチャッカやサハリンから、海や山を越(こ)えて但馬の地にたどり着いたのです。しかし、ここがゴールではありません。エゾビタキが目指すは、越冬地(えっとうち)であるフィリピンなどの南の国です。

 南の国で冬を過ごすと、来春には、再び繁殖地の北国に向かって移動を始めます。ですから、日本では、年に秋と春の2度、エゾビタキに会えることになります。このように、日本を通過していく渡(わた)り鳥を“旅鳥”と言います。

 説明が少し複雑になってしまったので、このイラストを見てください。エゾビタキが移動していくイメージを掴(つか)んでもらえると思います。
 
 それでは、改めて本校に滞在(たいざい)している、エゾビタキの様子をご覧ください。横枝にとまったエゾビタキは、盛んに頭を動かしています。上を見ていたと思うと、横を向いたり下を覗(のぞ)いたりと落ち着きがありません。他の枝に移っても、しきりに地面を気にしています

 次の瞬間(しゅんかん)、ヒラッと生活棟の小径(こみち)に下りたかと思うと、目にも止まらぬ早さで、再び同じ枝へもどってきました。その動きは俊敏(しゅんびん)そのもの、まるで軽業師(かるわざし)です。
 枝にもどったエゾビタキのくちばしには、なんと、オレンジ色の虫をくわえています。写真を拡大すると、どうやらカメムシのようです。これを2度3度、枝に叩(たた)きつけてから、ペロッと食べてしまいました

 エゾビタキは横枝の他に、高い枝先や梢(こずえ)で待機して飛び上がり、空中を飛ぶ虫を捕(と)らえ、再び同じ場所へもどって来る行動も見られます。英語では、この行動がそのまま名前となり“Grey-streaked Flycatcher”(フライキャッチャー)と呼ばれています。

 物怖(ものお)じしないエゾビタキは、入校式の最中にも大屋根広場のすぐ近くまでやって来ては虫を探していましたが、間もなく南へ向けて旅立つことでしょう。それまでに、本校を訪れた子どもたちにも、是非(ぜひ)、愛想良しのエゾビタキを観察してほしいものです。

文責 増田 克也


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