人生、五十から

 桜の枯(か)れ木で、ちょこまかと動き回る小さなものが目に付きました。それは、あっちの枝からこっちの枝に、次は幹へと飛び移り、まったく落ち着きがありません。近づいてみると、やっぱりそうです。この素早い動きはゴジュウカラでした。

 ゴジュウカラはキツツキのように、垂直な幹にとまり、そのまませり上がることができる数少ない野鳥です。しかし、これで驚(おどろ)かないでください。ここからがゴジュウカラの真骨頂(しんこっちょう)です。逆に幹を下るとき、キツツキはお尻(しり)から後ずさりをしますが、ゴジュウカラは、くるっと頭を下に向けてするするっと降りることができます。もちろん横向きにとまることなど朝飯前。桜の木を縦横無尽(じゅうおうむじん)に動き回ります。

 あれだけ忙(いそが)しく動いていたゴジュウカラが、ピタッと止まったかと思うと、次の瞬間(しゅんかん)、左足を繰(く)り出し首の辺りを掻(か)き始めました。よほど気持ちがよかったのでしょうか、頭の羽毛を膨(ふく)らませ、余韻(よいん)に浸(ひた)っていましたが、ハッと気付いたように行動を再開しました。

 お辞儀(じぎ)をするように大きく首を傾(かし)げてツン!逆さまになってツン!食べ物を探しながら枯れ木をどんどん上がり、ついにてっぺんまで登り詰(つ)めました。さあ、ここから飛び立つかと思いきや、いきなり大口を開けて、再び喉(のど)もとを激しく掻きだしました。辺りには白い粉が舞(ま)い散ります。一通り掻き終えると満足したように飛び出して行きました。

 行動を始めて飛び立つまでの間、わずか30秒ほどの出来事で、その忙しいこと忙しいこと。飛び去るゴジュウカラの後ろ姿を、何かホッとした面もちで見送りました。
 
 ところで、このゴジュウカラを漢字で表すと「五十雀」となります。名前に数字が入るのは珍(めずら)しいので、由来を調べてみました。すると、この鳥1羽で、ズズメ50羽分の価値かあったという説が有力でしたが、他にも諸説があるようです。その中で面白いものがありましたので、紹介(しょうかい)しましょう。

 それはゴジュウカラの灰色がかった頭を、白髪(はくはつ)の老人と見立て、五十という数字を当てたというのです。その昔、人の寿命(じゅみょう)が短かった頃(ころ)、50歳(さい)は立派な老人だったのですね。

 50歳を前にした私にとっては、何とも寂(さみ)しくなるような話です。そこで、平均寿命がぐ〜んと延(の)びた現代にふさわしい解釈(かいしゃく)をしましょう。それでは、ゴジュウカラの前に“人生”の文字を付けてください。すると、あら不思議。
人生、五十から!(ゴジュウカラ)」 いかがでしょう? ものは考えよう、なんだか、先行きが明るくなってきませんか。

文責 増田 克也



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