瑠璃色はカムフラージュ

 ある朝、出勤して自分のデスクに着くと、1センチにも満たない虫がじっと動かずにいました。全身の雰囲気(ふんいき)からみてカメムシの仲間ですが、その辺りで見かける臭(くさ)いカメムシ

           臭い匂いを出すクサギカメムシ

とは異なり、ピカッと金属のような光沢(こうたく)を放っています。「これはモデル志願者だな」と勝手に決めつけ、早速、葉っぱの上に乗せて撮影会(さつえいかい)を始めることにました。

 何かの縁(えん)で手元に来てくれたカメムシですから、せっかくなので名前を調べるとルリクチブトカメムシと言い、漢字では“瑠璃口太亀虫”と書くそうです。ややこしい名前ですが、分割すればわかりやすくなります。つまり、ルリ【瑠璃色(るりいろ)の】、クチブト【口が太い】カメムシという訳です。

 見れば見るほどますます輝(かがや)き、これまでのカメムシのイメージを一新させると言えば少し大袈裟(おおげさ)ですが、美しいカメムシであることは間違(まちが)いありません。
 そこで名前にある瑠璃色を写し取ろうと、カメラのシャッターを押(お)しましたが、黒く沈(しず)んでしまう部分や、逆にテカリが出て白飛びする箇所(かしょ)があり、なかなかよい結果が得られません。フラッシュの位置や角度を変えて試行錯誤(しこうさくご)しているうちに、偶然(ぐうぜん)に肉眼で見た発色に近いものを撮(と)ることができました。

 「瑠璃色のカメムシは、きっと花の蜜(みつ)でも吸っているのではなかろうか」美しい姿から浮(う)かんだ想像は、見事に打ち砕(くだ)かれました。
 図鑑(ずかん)によると、ルリクチブトカメムシはハムシなどの昆虫(こんちゅう)を捕(と)らえて体液を吸う動物食です。頑丈(がんじょう)そうな長い口を差し込(こ)まれ、体液を吸い取られれば、ハムシたちもひとたまりもないことでしょう。しかも、この目を引く瑠璃色は、よく似た色のハムシ

                    青色のハンノキハムシ

を都合よく捕食(ほしょく)するためのカムフラージュだというので驚(おどろ)きます。

 机の上で偶然出会った小さなカメムシ。プロフィールが明らかになるにつれて、興味は尽(つ)きません。さあ、今度はどんな昆虫(こんちゅう)に出会えるか、出勤するとまず初めに、机の上を見回すのが習慣になりそうなこの頃(ごろ)です。

文責 増田 克也



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