鮮烈な赤い肉

 数日前に降った雪が、いくらか残る川土手に上がり、遠くを眺(なが)めると、川の中ほどにうごめくものが目に付きました。オオタカです。オオタカが何やら足元に獲物(えもの)を押さえつけています。

 早速、望遠鏡で確認すると、両方の翼(つばさ)を半開きにして、獲物を覆(おお)い隠(かく)すようにしながらむさぼっています。この体勢なら、食事の邪魔(じゃま)をするカラスなどにも見つかりにくいことでしょう。
 捕(と)らえた獲物は、カワアイサというカモで、次々にむしり取られた羽毛が、綿雪のように流されていきます。

 このカワアイサは潜水(せんすい)が得意

                   潜水するメスのカワアイサ

なので、いざという時には、川に潜(もぐ)ることで難から逃れられたはずです。いくら飛行能力に長けるオオタカでも、水中までは手が出せません。。
 ところが、この近辺は浅瀬(あさせ)が続くところで、カワアイサといえども潜水することは不可能です。その辺りも全て計算ずくで、カワアイサに狙(ねら)いを付けたとするなら、このオオタカはなんという優れた戦術家なのでしょう。

 ある程度撮影した後、もう少しオオタカに接近してみることにしました。普段ならあっと言う間に逃げられてしまう距離(きょり)まで近づいても、捕らえた獲物への強い執着(しゅうちゃく)のためか、こちらを気にする様子はありません。終始一貫(しゅうしいっかん)して獲物に食らい付き、 時折、頭を上げ、浴びせる鋭(するど)い眼光は、正に野性そのものです。

 無心に食べていたオオタカが、突然(とつぜん)大きく羽ばたき、全体重をかけて獲物を引きずるような行動を何度か見せました。おそらく獲物を食べやすい位置に移動させているものと思われます。
     
 観察を始めてから、何分経ったでしょうか。側面から見るオオタカの胸元は丸く膨(ふく)らんでいます。これは、食べたものを一時的に蓄(たくわ)える、そ嚢(のう)と呼ばれる消化管が、満たされているためです。その膨らみからみると、オオタカはかなり満腹になっていることでしょう。

 その後、程なくオオタカは飛び立ち、獲物はハシブトガラスへと引き継がれました。ちぎられた肉片が流され、下流で待ち構えていたアオサギも恩恵(おんけい)に与(あずか)ったようです。

 ハシブトガラスが立ち去った後、現場を確認するべく川へ入ると、春浅い暗色の風景に、肉の赤色が鮮烈(せんれつ)に映り、先ほどまで繰(く)り広げられていた光景を思い出させましたが、川は何事もなかったように、水をとうとうとひたすら押し流していくのでした。

文責 増田 克也



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