カモに紛れて・・

 本校からほど近い、竹田地区の円山川を巡回(じゅんかい)すると、マガモやカルガモなど、お馴染(なじ)みの水鳥が川面で羽を休めています。対岸へ目をやると、こちらにもカルガモが2羽・・・
 いいえ、ちょっと待ってください。岸の近く、奥手で羽の中にくちばしを突(つ)っ込んでいるのは、確かにカルガモです。しかし、手前に浮(う)かんでいる鳥は、色や模様こそ似ているものの、黄色いくちばしやピンと跳(は)ね上がった尾羽の雰囲気(ふんいき)から、この辺りでよく見かける普通のカモではなさそうです。では、いったいこの鳥は何でしょう?

 すぐに頭に浮かんだのはマガンです。しかし、それにしては身体が小さいように感じました。近くで休むマガモと比べても、ほぼ同じ大きさに見えます。首を傾(かし)げつつ目で追っていると、川の浅瀬(あさせ)に立ち上がって羽繕(はづくろ)いを行い、次に羽を広げ羽ばたきを始めました。その翼(つばさ)は、マガモやカルガモより大きく、羽ばたきも、こちらまで羽音が届きそうなほど力強いものです。やはりこの鳥はマガンでしょう。

 その後、何を思ったか、お尻(しり)を振りながら、大きな水かきが付いたオレンジ色の足を交互(こうご)に繰(く)り出し、こちらへズンズン近づいてきます。どこかで餌付(えづ)けでもされていたのか、物怖(ものお)じする様子はありません。
 それでも、かなり近づいたところで立ち止まり、はたと気付いたように、きびすを返すとV字の白斑(はくはん)が入った後ろ姿見せ、川の中程へ戻(もど)って行きました。

 今回、奇遇(きぐう)にも出会ったマガンですが、以前撮影した個体と比べるとくちばしの付け根の色が黒く、表情もどことなく精彩(せいさい)に欠くところから、おそらく幼鳥ではないかと思われます。

 何であれ、これはとんだ珍客(ちんきゃく)です。マガンなんて広い農耕地にいるもので、この辺りでは、まず見られないと高をくくっていただけに、カモに紛(まぎ)れてこんな身近に現れるなんて驚(おどろ)きました。

 後日、機会がある度に、この場所を探しましたが、マガンの姿はなく、川面に浮かぶのは、代わり映えのしないカモたちばかりです。既(すで)に新たな餌場を求めて移動したのでしょう。
 願わくば、「もう一目だけでも」との思いは山々ですが、今回のことは当地にマガンが立ち寄ったという貴重な記録となりました。

文責 増田 克也



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