ダルマさんが転んだ作戦

 上の写真を見てください。1羽のヒバリが姿勢を低くして、草むらにうずくまっています。いったい何をしているのでしょう。実は、私を警戒(けいかい)して隠(かく)れているのです。その証拠(しょうこ)に目はしっかりとこちらを見据(みす)え、不測の事態に備えていつでも逃(に)げられるように身がまえています。

 「こんな隠れ方だとすぐに見つかってしまうぞ」と思われるかも知れませんが、これがなかなかどうして・・・
 それでは、この写真を見てください。先ほどのヒバリが、農道に茂(しげ)る草むらに隠れているのがわかるでしょうか。これではとても見当が付かないと思いますので、ヒバリのいる場所に○印を入れました。いかがでしょうか?水たまりのすぐ左側で、こんな風にうずくまっています
 枯(か)れ草混じりの農道にすっかり溶(と)け込む、ヒバリのカムフラージュは、ちょっとやそっとでは見破れず、やっとのことで居場所を探し出しても、うっかり目を離(はな)すと、一瞬(いっしゅん)にして見失ってしまうほど巧妙(こうみょう)です。

 さあ、これから、ヒバリはどうするのでしょう。このままじっと動かず隠れ通すつもりでしょうか。それならば、根競べです。こちらも腰(こし)を据えて、静かに様子を伺(うかが)うことにしました。
 大方、そのうちに、ヒバリはしびれを切らせて飛び立つだろうと予想しました。15分ほど時間が経過したでしょうか、しばらく膠着(こうちゃく)状態が続いた後、事態は突然動きます。
 なんと、今まで伏(ふ)せていたヒバリが腰をかがめたまま、農道をすたこらと駆(か)けて行くではありませんか。ヒバリの意表を突(つ)く行動に唖然(あぜん)とし、口が半開きになってしまいました。

 その後、こちらとの距離(きょり)が開いて安心したのか、体をふくらませて伸(の)びをひとつ。徐々にコツコツと地面をついばみ始めたので、試しにこちらから接近してみることにしました。

 しかし、安易に近づいても逃げられてしまうので、ある方法を考えました。それは、ヒバリがエサ採(と)りに集中してついばんでいる間に、じわりじわりと少しずつにじり寄り、こちらを警戒して頭を上げると、ピタッと止まり無関心を装う、名付けて“ダルマさんが転んだ作戦”です。これを何度か繰り返すうちに、結構近づくことができて、少し逃げ腰になっていますが、こんなに大きく写真を撮らせてくれました

 その時です。ヒバリの向こうを歩く人の姿に、ファインダーから目を離した瞬間(しゅんかん)、ヒバリは農道を横切り二番穂(にばんほ)が伸びた田んぼへ飛び立ち、“ダルマさんが転んだ”はあえなくゲームオーバーとなりました。

文責 増田 克也



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