川辺の赤と山の白

 本校で自然学校を実施する子どもたちが、生物の観察や川遊びなどで訪れる、円山川の土手を通りかかると、河川敷(かせんしき)の茂(しげ)みから「フィフィ、フィフィ、フィホ」と、覚えのある小さな声が聞こえてきます。この声は、昨年の冬によく聞いたベニマシコのものに違いありません。
 ベニマシコはモンゴル北部や中国北部、サハリン、日本では北海道や本州北部で繁殖(はんしょく)し、寒くなる時季には、本州中部以南、四国、九州などへ移動して越冬(えっとう)する渡り鳥です。

 河川敷の草むらを見つめて、どれくらいの時間が経過したでしょう。水音に消されそうな声と、僅(わず)かに揺(ゆ)れる草の動きを頼(たよ)りに、中腰(ちゅうごし)で前のめりになり、頭で円を描(えが)くように茂みの中をのぞき込んで探すと、どうにか赤いベニマシコの姿を捉(とら)えることができました。

 しかし、ここから写真を撮っても、距離(きょり)があることに加えて、ベニマシコの前に枝葉がかかっているため、鮮明(せんめい)なものはとても期待でないため「とりあえず記録だけでもしておこう」とカメラを構えました。

 ところが、ベニマシコは、2、3コマ、シャッターを切ったところで、アメリカセンダングサの種子に首を伸(の)ばしてチョンとついばむや否や、突然(とつぜん)茂みの奥に消えてしまいました。

 随分(ずいぶん)と待たされた割りには、つかの間の出会いでしたが、今季初めて見る赤い姿に、喜びは一入(ひとしお)です。またいつか再会できることを願いながら、次に本校の朝来山へ足を向けました。

 朝来山の自然散策路くまコースの斜面(しゃめん)には、数株のセンブリが白い花を咲かせています。縦(たて)に紫色(むらさきいろ)のラインが入った5枚の花びらは、直径2センチほどで、うっかり見落としてしまいそうなほど小さなものです。

 ひとつひとつの花を丹念(たんねん)に見ていくと、同じ株に咲く花でも、雄しべの先端(せんたん)にある“葯(やく)”の色が異なることに気付きました。
 この写真を見てください。矢印の場所が葯と呼ばれる部分ですが、下の花はあずき色で、上の花は黄色です。「なぜだろう?」しばらく首を傾(かし)げましたが、謎(なぞ)はすぐに解けました。

 つまり、葯のあずき色は、花粉の色なのです。先に開花したと思われる、葯が黄色い花は、既(すで)に虫たちによって、花粉が運ばれた後なのでしょう。花びらの傷も、開花してから今日までの、時間の経過をうかがわせます。

文責 増田 克也



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