雌雄同体であること


 ある日のこと、携帯(けいたい)電話が鳴りました。「ハイ、もしもし」電話に出ると・・・「おい、ええ写真が撮れたでなぁ、自然学校の子どもらに見せたってくれや」電話の主は、本校の近くに住まいを構えるSさんでした。

 このSさん、御年(おんとし)80歳(さい)にして、農業や山仕事はもちろんのこと、錦鯉(にしきごい)の養殖(ようしょく)、ニホンミツバチの養蜂(ようほう)、写真などなんでもこなす、狩猟歴(しゅりょうれき)50年を誇(ほこ)るアウトドアの達人です。これまで何度も、自然に関する情報を提供していただき、私にとってはありがたい存在です。

 数日後、届けてもらった写真を見て「うん・・こりゃ何だ? ウンコか?」一瞬(いっしゅん)、面食らったものの、「あっヤマナメクジだ!」しかも、2匹(ひき)が巴(ともえ)になり、何やら真ん中には白いものが見て取れるではありませんか。

 Sさん

             その時の状況を、手振りを交えて語るSさん

によると、2匹のヤマナメクジには、朝早くクリ拾いに出かけた際に遭遇(そうぐう)したそうで、このような体験はこれで4度目。一目見るなり、すぐにヤマナメクジの交尾(こうび)シーンだと分かったそうです。

 ヤマナメクジは、大きなものでは20センチ近くにもなる、日本最大のナメクジで、本校でもこの季節になると、どこからともなく姿を現し、「なあ、あれ見た?大きいやつ・・」「見た見た、あそこにおったでー」などと、スタッフの間でも度々話題になる奇妙(きみょう)な生き物です。

 巴になったヤマナメクジの写真を眺(なが)めていると、ある疑問が湧(わ)いてきました。ナメクジやカタツムリの仲間は、雌雄同体(しゆうどうたい)のはずです。つまり1匹の体に、オスとメスの機能をあわせ持っているのです。ですから、交尾を行わなくても単独で子孫を残せるのではないかと思いました。

 調べてみると、やはりナメクジの類は、自家受精をして単独でも生殖(せいしょく)が可能でした。ただし、自家受精を行うのは、繁殖(はんしょく)相手がいない時など、大変まれなことで、ほとんどの場合は別個体と交尾をして生殖するということです。

 さらに調べると、ナメクジは身体の前後に、オス、メスそれぞれの生殖器が並んでいて 交尾はお互(たが)いの精子をメスの生殖器に注入し合い、その後、それぞれの個体が受精卵を産卵するとのことです。

 なるほど、巴になる交尾の体勢は、生殖器の位置によるものだったのです。また、雌雄同体であることで、歩みののろいヤマナメクジが、わざわざ異性を探す必要がなく、加えて、交尾を行ったそれぞれの個体が産卵できるのも、子孫を残す上で大変有利ですね。このように改めて考えると、巧みな自然の仕組みに感心するばかりです。

文責 増田 克也


  *以前、この自然のページで、ヤマナメクジを取り上げたことがありました。こちらも合わせてご覧ください。


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