キノコとアブラゼミ

 本校に9つある自然観察路の1つ、くまコースに入って間もなく、赤いキノコが目に留まりました。これは、毎年この辺りで見かけるタマゴタケです。今朝ほど出てきたのでしょうか、まだ開ききらない傘(かさ)も初々しく、みずみずしい光沢を放っています。
 2つ並んで頭をもたげた赤いキノコの、なんとユーモラスなことでしょう。小人と一緒(いっしょ)に、西洋のおとぎ話にでも登場しそうな出で立ちに思わず笑みがこぼれます。

 ところで、このタマゴタケというネーミングですが、「なぜ、赤いキノコなのに、白い玉子なんだ?」と不思議に思われた方もあることでしょう。それは、タマゴタケの根元にある白い部分を、玉子の殻(から)に見立てているのです。以前、撮影したこの写真を見てもらえれば一目瞭然(いちもくりょうぜん)。赤いタマゴタケは、白い玉子から誕生する、変わり種のキノコです。

 タマゴタケとの出会いに気をよくし、観察路を外れて雑木林に踏(ふ)み入ると、またまた面白いキノコがありました。まるで雪だるまのようなこのキノコは、名前をシロオニタケといい、これから傘を開く幼菌(ようきん)です。
 名前のとおり、無数にある小さなイボが鬼(おに)の頭にそっくりですが、このイボは意外にもろく、少しでも触(ふ)れようものなら、ポロリッと簡単に落ちてしまいます。幼菌のすぐ近くには、昨夜の雨で傘からイボが流れ出し、無惨(むざん)な姿をさらす、落ちぶれた白鬼が立っていました。
 この時季、シロオニタケは、雑木林に入れば普通に見られ、それほど珍(めずら)しいものではありませんが、林の中でよく目立つ白いキノコは、出会う度に目を楽しませてくれます。

 先ほどからキノコを見ている最中に、気がかりなのもがありました。それはヤマザクラの幹にとまって、全く動かないアブラゼミです。そっと近寄り確認すると、幹に掴(つか)まったまま息絶えていました。全身にカビのようなのもがはびこっているので、おそらく細菌(さいきん)にでもやられたのでしょう。

 本校に生息するセミの変遷(へんせん)は、4月から鳴き出すハルゼミに始まり、梅雨明けにはニイニイゼミ、次にアブラゼミ

           案内板に残るアブラゼミの抜け殻

が聞こえ、しばらくすると活気に満ちたミンミンゼミ、そこへ朝夕のヒグラシが加わり、今はツクツクボウシへと引き継(つ)がれています。この賑(にぎ)やかなセミの声も間もなくフェードアウトして、フィールドの主役はキノコへとバトンタッチすることでしょう。

 紅白のキノコと動かないアブラゼミを見ていると、南但馬自然学校の季節は生き物たちに導かれるように、少しずつ移りかわっているように感じました。

文責 増田 克也


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