ストリングスと工作機械


 キャンパスに大きな筆で、絵の具をぐいぐいと置いたような朝焼けが広がった南但馬の空。こんな日は天気が良くないというのが定説ですが、同じ但馬でも所が変われば天気も変わるものです。

 この日向かった、北但馬の山では、辺りを呑(の)み込んでいた深い霧(きり)が消え始め、清々しい一日を予感させる、ヒグラシのストリングスが心地よく響(ひび)いていました。さあ、今回はどんな生き物と出会えるでしょうか。

 草丈(くさたけ)が約2メートルにも成長したタケニグサが、葉の上で朝露(あさつゆ)の水玉を踊(おど)らせています。
 その隣(となり)にある青やピンクの球をたくさん付けているのはクマノミズキです。色の違(ちが)いは、実の成熟度によるところでしょうが、これを見るとDNA塩基配列の模型を思い出すのは、おそらく私だけでしょう。

 6月に花を落としたハクウンボクも、ぷっくりとした青い実を大切に育んでいました。その実にしっかり取り付いていたのは、コフキサルハムシでした。この虫は、名前のとおり、体に白い粉を付けていますが、これは徐々にとれてしまい、中には粉が完全に落ちてしまった黒色のものもいるそうです。

 葉の上で長い触角(しょっかく)をこちらに向けたキリギリスの仲間、ヤブキリにカメラを向けると、その顔は不思議と親しみを覚えます。いくらかシャッターを切ったところで、ふとヤブキリがメガネを掛けた姿を空想すると、それは中学でお世話になった先生の顔にそっくりでした。

 植物や昆虫(こんちゅう)に目を奪(うば)われていると、山の朝霧はすっかり晴れ、下界に雲海を残した夏の高原が現れました。この景色でカッコウの声でも聞こえれば最高ですが、こちらの思惑(おもわく)どおりにはいかないもので、カッコウの代わりに鳴き始めたのはエゾゼミです。

 エゾゼミは、透明(とうめい)な羽を持つ、黒や黄色の模様が美しい大型のセミです。私は、この漆塗(うるしぬ)りの仏壇(ぶつだん)のような重厚感が大好きで、いつも見入ってしまいます。

 しかし鳴き声は、心地よいヒグラシのストリングスとは大違いで、全くいただけません。これはもう“鳴き声”というより、むしろ騒音(そうおん)に近いものがあり、まるで工作機械を運転しているかのようです。特に近くで鳴かれると、声が頭の中で反響(はんきょう)し、思わず両手で耳を塞(ふさ)いでしまうほど強烈(きょうれつ)で、清々しい夏山の雰囲気はぶち壊(こわ)しです。とは言え、ノイジーなこの工作機械も夏の風物詩であることには違いありません。

 最後に、みなさんにもエゾゼミの声をお届けして、少し暑苦しい夏山気分を味わっていただきましょう。
 聞き所は、エゾゼミの声に途中からニイニイゼミが加わり、一段と賑(にぎ)やかになるところです。また、微(かす)かに聞こえる野鳥の声はホオジロのものです。それでは、セミのアイコンをクリックしてお聞きください。

文責 増田 克也



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