アオバトとクワの木


 暗い曇天(どんてん)の下、風もないのにザワザワと不自然に揺(ゆ)れるヤマグワの木がありました。何者かが、たくさん実ったクワの実を食べているのでしょうが、茂(しげ)った葉が邪魔(じゃま)をして姿を確認できません。
 重なった葉のわずかなすき間から、見え隠(かく)れするものに双眼鏡(そうがんきょう)を合わせてみると、それは葉の色にうまく溶(と)け込んだアオバトでした。

 アオバトは大変用心深く、こちらがアオバトの存在に気付く前にいつも逃(に)げられてしまいます。ところが今日はクワの実にご執心(しゅうしん)のようで、こちらを気にしている様子はありません。これは観察をするチャンスです。身を潜(ひそ)めてアオバトが出てくるのを待つことにしました。

 どれくらい時間が経過したでしょう。日頃(ひごろ)の睡眠(すいみん)不足がたたり、不覚にも船を漕(こ)いでしまいました。
 「ガザッ、バタバタ」大きな羽音にハッとして目を開けると、葉の茂みからアオバトがひょっこり出てきてクワの実をついばんでいるではありませんか。

 実を食べる様子を見ていると、面白いことに気付きました。アオバトはクワの実をついばむ際に、目を閉じているのです。それは一瞬(いっしゅん)の出来事ですが、何度見ても、その度、閉じているようです。
 では、なぜ目を閉じるのでしょうか? まさかアオバトまでもが睡眠不足という訳はないでしょうし、クワの実の余りの美味しさにうっとり・・・と解釈(かいしゃく)したいところですが、これも現実離(ばな)れしています。おそらく、実をついばむ際に、接近することになる枝葉(えだは)から目を保護するために閉じているのでしょう。

 アオバトは、実をくちばしに挟(はさ)むと、首を横に振り一気にもぎ取って、素早く口の中へ放り込みアッと言う間に食べてしまいます
 この動作を繰(く)り返して、いくらか食事シーンを見せてくれたものの、そこは警戒心(けいかいしん)が強いアオバトのこと、やっぱりシャッター音が気になったようで、深い谷へ向かって飛んでいってしまいました。

 この時季、ヤマグワはたくさんの実を付けています。人間が食べても美味しい実は、アオバト以外にも、ヒヨドリやカケスなど色々な野鳥に大人気ですから、バードウォッチングにはもってこいです。
 その他、葉っぱにも注目してください。一本のヤマグワの木を見ても、一般的な丸いもの片方だけに切れ目があるもの、また、両側が深く切れ込んだものなど、何パターンもの形があるのは興味深いところです。

 みなさんも、ヤマグワの元で自然観察はいかがでしょうか。ただし、せっかくのチャンスを逃さないよう居眠(いねむ)りには注意してくださいね。

文責 増田 克也


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