落花枝に帰らず


 只今(ただいま)、梅雨まっただ中。ジメジメ、ジトジト・・・外出するのも億劫(おっくう)になりがちです。
 今日の天気予報をチェックすると、曇(くも)りで降水確率30パーセント。この時季にしては、まずまずの天気です。そこで思い切って山へ出かけることにしました。

 早速、出迎(でむか)えてくれたのは、シャンデリアのような花を広げた、オオバアサガラです。雲の切れ間から漏(も)れた、つかの間の日差しが、シャンデリアにパッと明かりを灯しました。この花は、随分(ずいぶん)時期はずれですが、半月ほど後でもう一度花見ができて少し得をした気分です。

 山道に敷(し)きつめられた白い花。「これはいったい何事だ、誰(だれ)かのイタズラか!?」 見上げると、そこにはハクウンボクの花があり、これが一斉(いっせい)に散り始めていました。
 花が散った枝には、白い針のような、めしべだけが残っています。この状態を見ると“花が散る”というより“抜(ぬ)け落ちる”と表現する方が正確で、見ている間にも、ポタリ、またポタリと落ちてきます。
 先に進むにも、地面の花びらを踏(ふ)みつけるのがもったいなくて、道の端(はし)っこをつま先歩きでやり過ごすと、前方からこんな音が耳に飛び込んできました。

 これは、ヒナの声です。どこかに巣があるのだろうと、近くの木々を見上げましたが、どうやらその声は下から聞こえてきます。不思議なことに、私が歩くと足音に反応し鳴き始め、「一体どこにおるんや?」などと声を出すとピタッと鳴きやみます。

 声を探して、何度か行き来しているうちにヒナの居場所がわかってきました。声は道に沿って設けられた、ガードケーブルの支柱に空いた穴から聞こえてきます。
 近くにカメラを置いて、離(はな)れた場所からリモコンでシャッターを切ると、ヒナに餌(えさ)を運んできた、シジュウカラの親鳥が写っていました。

 しばらく、シジュウカラを観察していると、突然(とつぜん)、向かいの山からガスが下りてきて、辺りは見る見るうちに白くなり、ついには20メートル先が見通せないほど薄(うす)暗くなりました。こうなると無理をせずに引き返すのが得策です。
 帰り際に、先ほどのハクウンボクに目をやるとボヤッとガスに包まれ、名前の通り白(ハク)雲(ウン)木(ボク)となっていました。

文責 増田 克也


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