つかの間の出会い


 最近、どういう訳か変わった野鳥に出会います。この前は、尾羽が身体の三倍ほどもあるサンコウチョウに、そして今回は、腰(こし)の一部を除いて、全身、赤褐色(せきかっしょく)の、通称(つうしょう)“火の鳥”、または、梅雨の時季にさえずることから“雨乞(あまご)い鳥”とも呼ばれる、アカショウビンに巡(めぐ)り会いました。

 アカショウビンは、春に南の国から日本へ渡り、主に渓流(けいりゅう)沿いの深い広葉樹林を住処(すみか)として、枯(か)れ木などに穴を掘(ほ)り巣を作ります。姿からもわかるように、カワセミの仲間ですが、身体はカワセミよりずっと大きくヒヨドリほどあります。食性も異なり、ほぼ小魚に限定しているカワセミに対して、大型の昆虫類(こんちゅうるい)、サワガニ、カタツムリ、トカゲ、カエル、小魚などとバラエティーに富み、くちばしに合う動物性のものならなんでも食べてしまいます。

 そんな悪食(あくじき)なアカショウビンですが、大変人気があります。昨年、アカショウビンが訪れた鳥取県のあるキャンプ場では、連日50名を越(こ)える大勢のカメラマンが大砲(たいほう)のような望遠レンズを携(たずさ)えてつめかけました。アカショウビンを巡るこの手の話は、これまでもしばしばニュースになるほどで、時には警察が出動する騒(さわ)ぎになったとか・・・人々の熱狂(ねっきょう)ぶりがうかがえます。

 今回、アカショウビンに出会ったのは、昼過ぎまで降っていた雨が上がった夕刻のことでした。本校からほど近いヒノキの植林地から「キョロロロロ・・・・」と尻(しり)下がりの澄(す)んだ声が繰(く)り返し響(ひび)いてきます。
 「あれ?、アカショウビン?」不可思議に感じました。というのも、これまでアカショウビンと出会った場所は、人工林ではなく、ブナなどの広葉樹が茂(しげ)る自然豊かな森がほとんどだったからです。しかし、この特徴(とくちょう)がある声を聞き違(ちが)えるはずはありません。

 声を頼(たよ)りに、暗くなり始めたヒノキ林に足を踏(ふ)み入れました。アカショウビンの赤い身体は、よく目立ちそうですが、これが意外にも木々によく馴染(なじ)んで、なかなか見つけられません。林の中から首が痛くなるほど、上を見つめていると、偶然(ぐうぜん)、飛び立ったアカショウビンが目につき、高い枝にとまったところで、運良く写真が撮れました。
 これは、シャッターを切りながら感じたことですが、鳴いているアカショウビンは、他の野鳥のように大口

       口を大きく開けてさえずるオオヨシキリ

を開けず、上品なおちょぼ口でさえずります。しかし、その声が思いの外、遠くまで届くのは声質によるところでしょうか。
 赤褐色の姿をいくらかカメラに収めたところでサッと飛び出し、求愛の時に聞かれるような、愛おしげな声を残して山の奥に消えていきました。

 今回の出会いは、つかの間でしたが、とりあえず姿と声を記録することができました。アカショウビンが南但馬自然学校から姿を消してから、かれこれ10年が経ちます。次回、彼らに会えるなら、校内で繁殖(はんしょく)し、生活の一端でも見せてはくれないだろうか。少し贅沢(ぜいたく)な希望を思い描(えが)いてしまうのでした。

文責 増田 克也


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