谷津田の卵


 生き物の観察などで度々足を運ぶ、本校の近くにある谷津田(やつだ)では、1羽のオスと数羽のメスで構成された、3グループのキジが暮らしています。

 キジは、静かにしていると、結構近くまでやって来て、いろいろな行動を見せてくれます。大きな声と力強い羽ばたきで、自分のテリトリーを宣言する“ほろ打ち”や、オスが頭を下げてメスの前に立ちふさがり、尾羽を扇子(せんす)のように広げパタパタと動かす、求愛ディスプレイなど、見ているこちらを飽(あ)きさせません。

 先日のこと、近所に住むTさんが私の所にやって来るなり、「実は、キジを切ったんや・・・」と語り始めました。
 話はこうです。谷津田で、空き地の草を刈払機(かりはらいき)を使い、刈り進んでいたところ、草むらの中にうずくまっていたメスのキジを、草と一緒(いっしょ)に刈ってしまったと言うのです。幸いなことに羽根をいくらか落としただけで、ケガをした様子はなく、驚(おどろ)いたキジは山に逃(に)げ込んだそうです。キジが飛び立ったその場所は巣で、中にはいくつか卵があり、「キジには、ほんに気の毒なことをした」と反省の弁を述べるTさんでした。

 巣に就いていた親鳥は、卵を守りたい一心で、エンジン音を轟(とどろ)かせ迫り来る刈払機の恐怖(きょうふ)に怯(おび)えながらも、ギリギリのところまで、じっと耐(た)えていたのでしょう。

 早速、現場を確認に行くと、そこには、枯(か)れ草を無造作に集めて作られた巣に、12個の卵が産み付けられていました。卵の形は鶏卵(けいらん)によく似ていましたが、長さは約5センチで鶏卵より二回りほど小さく、色はベージュをしています。

 この先、親鳥は巣にもどってくるのでしょうか。次の日、遠くから望遠鏡でそっと様子を伺(うかが)いましたがキジの姿はありませんでした。周辺の草が刈り取られ、巣が丸見えになってしまったので、放棄(ほうき)するのも無理はありません。
 数日後、通りざまに巣をのぞくと、なんと卵もなくなっています。しかし、それは当然の成り行きで、この谷津田に棲(す)む動物の糧(かて)となったものと理解していました。

 ところがこの後、意外なところで卵と再会することとなります。それはTさん宅の居間に置かれた孵卵器(ふらんき)の中でした。
 卵を自宅へ持ち帰ったTさん、せめてもの罪滅(つみほろ)ぼしにと、どこからか孵卵器を調達し、卵を孵化(ふか)させるべく、只今、奮闘中(だたいま、ふんとうちゅう)です。さあ、この12個の卵たち、無事にヒナになることができるのでしょうか、当分の間、目が離(はな)せません。

文責 増田 克也


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