生活棟の裏山で


 子どもたちが寝泊(ねと)まりする生活棟の南には、裏山が広がり、毎年、春にキビタキが訪れます。今年も春先から、「ピッコロ、ピッコロ」と軽快なリズムのさえずりを響(ひび)かせ、林の中を行き来しています。
 先日、この裏山から聞こえるさえずりに誘(さそ)われ、林の中に入ってみることにしました。

 キビタキは、黒と黄色を基調にしたインパクトのある体色をしています。この二色は、踏切(ふみきり)の遮断機(しゃだんき)や道路標識などに使われる、よく目立つ取り合わせですが、新緑の林では、葉っぱを透過(とうか)する光にうまく紛(まぎ)れて、キビタキを見つけ出すのは、結構大変です。
 声を頼(たよ)りに林の中層部をくまなく探すとオスのキビタキが、腰(こし)を丸くかがめたいつものポーズで穏(おだ)やかに歌っていました。

 ところがリラックスムードもつかの間、「ブゥ〜ン、ブゥ〜ン、パチパチ!」とハチに間違えそうな音を残して急に飛び立つと、低い枝にとまり、上の写真のように、しきりに辺りを見回しています。
 穏やかに歌っている時とは対照的に、腰を伸(の)ばして体を細くし、全身に緊張(きんちょう)をみなぎらせて、カッと開いた口がただ事ではないことを物語っています。

 このキビタキがこれほど殺気立つのは、別のオスがテリトリーに侵入(しんにゅう)してきたからです。しかし、こんな時でも、葉陰(はかげ)に虫を見つけると、「腹が減っては軍は出来ぬ」とばかりに、腹ごしらえをするあたりは、案外ちゃっかりとしています。食事を数秒で終えると「ブゥ〜ン、ブゥ〜ン」、うなり声を上げながら、生活棟の方向へすっ飛んでいきました。

 裏山のキビタキ、今日は勇ましく迫力満点(はくりょくまんてん)でしたが、新緑の柔(やわ)らかな光に包まれた姿もまた魅力的(みりょくてき)です。
 ここでは、メスのキビタキも見かけるので、どこかに巣を構えているでしょう。本校を訪れた子どもたちの歓声(かんせい)が届く生活棟の裏山で、無事に子育てをしてほしいものです。

文責 増田 克也


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