黄砂の日に

 5月2日、九州から関東にかけた広い範囲(はんい)で、今年初めての黄砂が観測されました。当地では早朝まで青空が広がっていましたが、午前8時を過ぎた頃(ころ)から、急に見通しが悪くなり、辺りはぼんやりとした黄砂のベールに包まれました。

 田んぼへ向かうと、目の黄色い縁(ふち)取りが愛らしいコチドリが、私の足元へスタスタと駆(か)け寄ってきました。試しに写真に撮ってみると、至近距離(しきんきょり)では黄砂の影響(えいきょう)はなさそうです。
 次に 満開になったゲンゲ畑で獲物(えもの)を探す、約40メートル先のダイサギにシャッターを切りました。さすがにこれだけ離(はな)れると、シャープには写らず、ゲンゲの色もどこか黄色を帯びているように感じます。

 山へ上がると、全く見晴らしが利かず、連なる山は距離を置くごとに白く霞(かす)み、手前から数えて3つ向こうの山影をうっすらと確認するのが精一杯です。普段なら多少天気が悪くても、谷間から朝来市の市街地を望めるはずのこの場所でも、視界は5キロメートルほどで、その先は靄(もや)がかかったように全く見通しが利きません。

 そんな黄砂の山で、カッコウの仲間、ツツドリに出会いました。しかし、残念なことに、黄砂の空がバックでは、写真を撮ってもくっきりと写りませんでした。
 ツツドリの名前はその鳴き声が由来になっています。オスが、「ポポ、ポポ、ポポ」という、筒(つつ)の穴を手の平で叩(たた)くと出る低い音に似た声で鳴くことから名付けられました。この時季に、山へ行くとよく耳にするこの独特な声は、聞き覚えのある方も多いことと思います。
 さあ、このツツドリ、ユニークな声をいつ聞かせてくれるのでしょう、今か今かと期待しましたが、鳴くどころか枝でじっとして動こうとしません。しばらくすると、ツツドリがとまる枝(えだ)の下の薮(やぶ)へ、ちょこまかと小鳥がやってきました。するとどうでしょう、身体をぐーんと伸(の)ばして、小鳥たちの行動をひたすら目で追っています
 ツツドリは、卵を他の鳥の巣に産み付けて、孵(かえ)ったヒナの世話をさせる、託卵(たくらん)という習性を持っています。おそらくこのツツドリは、託卵の相手を物色しているのでしょう。いくら待っても鳴かなかったのも、この個体がメスということで、ようやく納得できました。

 山を下りて家路を急ぐ頃には、すでに日は大きく傾(かたむ)き、ふと見上げると、西の山際(やまぎわ)に貼(は)りついた月と見間違えそうな夕日が、黄砂のフィルターを一段と黄色く染めながら山の稜線(りょうせん)へ沈(しず)んでいきました。

文責 増田 克也


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