赤く膨らむもの


 まっ白な霧(きり)に包まれた朝、一斉(いっせい)にツクシが頭をもたげた山田の畦(あぜ)では、オスのキジが大声で、自分の縄(なわ)張りを宣言しています。暖かくなり、繁殖期(はんしょくき)に入ったキジたちは、田んぼや河川敷(かせんしき)で盛んに声を張り上げ縄張り作りに精を出します。

 村中へ移動すると、ここでもキジに出会いました。一面に白い小さな花を咲かせたタネツケバナが広がる田んぼで、2羽のキジが低い姿勢で構え、じっとにらみ合っています。2羽は縄張り争いのまっ最中で、正に一触即発(いっしょくそくはつ)の状態です。
 さあ、どちらが先に攻撃(こうげき)を仕掛(しか)けるか、固唾(かたず)を呑(の)んで見守りましたが、どうしたことでしょう、キジたちは、同時にクルリっと向きを変えると、仲良く並んで行ってしまいました。「あら?」拍子抜(ひょうしぬ)けして首を傾(かし)げていると、農道には、犬を連れた人の姿がありました。

 すっかり霧が晴れたので、再び山田へ戻(もど)ると、先ほどのオスと思われる個体が姿を現し、朝日を浴びて、輝(かがや)いています。続いて畦の向こう側から、ぬっと頭を出したのは、メスのキジでした。メスはオスに比べて、大変地味な色をしていますが、これが上手く敵の目を欺(あざむ)く保護色になっています。
 
 オスのキジは、カモのように繁殖期に向けて美しい羽に着替えることはなく、一年を通して同じ装いです

               冬のキジも同じ色と模様をしている

。ただ、体の一部に冬と春では大きく異なるところがあります。それは肉髯(にくぜん)という、顔の周りにある赤い部分で、繁殖期を迎(むか)えた春には赤く大きく発達します。今度キジに出会う機会があれば肉髯にも注目してみてはいかがでしょうか。

 近頃(ちかごろ)、キジの肉髯の負けず劣(おと)らず、赤く膨(ふく)らんでいるのはサクラのつぼみです。川沿いにある桜並木の枝先も、ほんのりピンクに色づき、この自然のページを公開する頃には、ほぼ満開となっていることでしょう。

 帰りに母校の側を通りかかると、校庭に植えられたサクラが一輪、花を開かせていました。近隣(きんりん)の小学校へ統合され、今月から子どもたちの姿が見えなくなった校舎を背景にシャッターを切りました。

文責 増田 克也


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