「シマアジ」と聞いて、鳥を連想する人は、余程の野鳥通です。魚のシマアジは、みなさんよくご存じでしょう。食いしん坊(ぼう)の私も、美味しそうなお造り が頭に浮(う)かぶだけで、鳥などはこれっぽっちも思いつきません。
ちなみに、インターネットでシマアジを検索(けんさく)すると、そのほとんどが魚のシマアジに関する情報ばかりです。ですが、世の中には魚だけではなく、鳥のシマアジもしっかりと存在しているのです。
上の写真にあるカモがシマアジです。眉班(びはん)と呼ばれる、長く白い眉毛(まゆげ)のような模様が目立つ他は、これと言った特徴(とくちょう)もな く「パッとしない鳥だなぁ・・・」と感じる方もあることでしょう。しかし、これでも、なかなか見られない珍(めずら)しいカモなのです。
それと言うのも、普段、※シマアジは日本にはいません。ユーラシア大陸の北から亜(あ)寒帯地域にかけての繁殖地で、子育てを終えると、越冬(えっとう)のために日本より南にある亜熱帯や熱帯地域へ渡って冬を過ごします。
ですから、シマアジに出会えるのは、移動の途中で日本へ立ち寄る、春と秋のわずかな時間に限られ、また、数もそう多くないので、ちょっとやそっとで見られないと言う訳です。
先日、偶然(ぐうぜん)にオスのシマアジを観察する機会に恵まれました。図鑑(ずかん)によると「大変、警戒心(けいかいしん)が強いカモ」とありましたが、静かに待っていると、20メートルくらいまで近づいてきました。
遠目には、パッとしないシマアジも、望遠鏡を覗(のぞ)くと、落ち着いた彩(いろど)りが美しく、特に、背中とお腹はクローム仕上げの金属製品のような風合いで魅力的(みりょくてき)です。そして、よく目立つ眉班は、額から後ろへ長く繋(つな)がり、背中まで達しそうな勢いで延びています。
シマアジは、先ほどから頭を川上に向けて、流れてくる浮遊物(ふゆうぶつ)をひとつひとつ、突(つつ)いては 、食べられるものと、そうでないものを、瞬時(しゅんじ)に振(ふ)り分けています。その忙(いそが)しいこと忙しいこと、せかせかと首を左右に振り、少しもじっとしていません。
そこへ、ひょっこり現れたのは、よく見かける中型のカモ、ヒドリガモです。このように隣(となり)に並ぶと、シマアジがいかに小さいかがよくわかります。シマアジはハトより少し大きい程度の小さなカモです。
次の日、シマアジが翼(つばさ)を広げて飛ぶ姿を、どうしても写真に撮りたくて、同じ場所を探しましたが、すでに姿はありませんでした。しばらくここで疲(つか)れを癒(いや)し、北の繁殖地へ向けて旅立ったのでしょう。
う〜ん、大変心残りですが仕方ありません。残念賞に魚のシマアジで乾杯(かんぱい)と洒落(しゃれ)込もうと目論みましたが、言わずと知れた高級魚。私にとってシマアジは、魚も鳥も“高嶺(たかね)の花”なのでした。
※ 日本では、北海道の一部で繁殖している他、愛知県でも繁殖記録があります。
文責 増田 克也
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