位を授かったサギ


 コンクリート塀(へい)で佇(たたず)むゴイサギに出会いました。頭と背中は黒色、他は灰色と白色で、どことなくペンギンに似た夜行性のサギです。一般にサギといえば、スマートな出で立ちを想像しますが、ゴイサギはご覧の通り.ずんぐりとした体型をしています。サギのトレードマークの長い首

                長い首を伸ばして獲物を探すダイサギ

も、普段は短く縮めているので“ずんぐり感”はますます強調されて、とても「かっこいい」とは言えません。しかし、スタイルはともかく、モノトーンの体色は、水墨画(すいぼくが)でも鑑賞(かんしょう)しているかようで、なかなか味わい深いものがあります。

 そんなゴイサギも幼鳥のころには、黒褐色(くろかっしょく)の身体に黄色味がかった白い斑点(はんてん)があり、とても同じ種類には思えないほど、成鳥とは異なった色と模様をしています。そのためか、斑点模様の幼鳥は“ホシゴイ”と別名で呼ばれることがあります。

 コンクリート塀のゴイサギは、時折、下を流れる小川に目をやりますが、本来、夜行性のためか精彩(せいさい)がなく、どことなく眠(ねむ)そうに見えます。それでは、せめて飛び立つシーンでも撮影しておこうと、カメラを持ち替(か)えた隙(すき)にサッと飛ばれてしまい、残念な思いをしました。

 数日後、再びこの辺りを通りかかると、枝が複雑に込み入った木の高いところに留まっているゴイサギを見つけました。都合がいいことに、ゴイサギのいる木に向かって、道は上り坂になっており、そのまま進むとすぐ側まで行くことができます。
 驚(おどろ)かさないように、少しずつ距離(きょり)を縮めていくと、途中、枝の間から背中が見通せる場所がありました。改めて見ると、ゴイサギの丸まった背中は、蓑(みの)を羽織った“子泣きじじい”にそっくりです。

 ついに、ゴイサギの真横までたどり着き、車の窓からレンズの先端をそっと出した途端、いきなり大あくびをひとつ。その後もしばらく観察をしていましたが、全くこちらを気にする様子はなく、ひたすら眠っています

 それならばと、車を降りて一歩二歩と近づき、ついには10メートルを切る距離まで接近しましたが、よほど眠たいのでしょう、微動(びどう)だにせず、ただただ眠りこけるばかりです。唯一(ゆいいつ)動くものといえば、頭から飛び出した、ラジコンのアンテナのような、冠羽(かんう)と呼ばれる飾(かざ)り羽が、時折、吹く風に揺(ゆ)れるだけです。
 せっかくの睡眠(すいみん)を邪魔(じゃま)するのも気が引けるので、いくらか写真を撮り、その場をそっと離(はな)れることにしました。

 ところで、この“ゴイサギ”という名前の由来には、ユニークな逸話(いつわ)ありますので紹介(しょうかい)しましょう。
 時を遡(さかのぼ)ること一千年、時代は平安の世のことです。醍醐(だいご)天皇が池にいたこの鳥を見つけ、家来に捕(と)らえるよう命じました。鳥は天皇の命令に従い、暴れることなく素直に捕らえられ、それに感心した天皇は、この鳥に“五位”の位を与(あた)えました。それ以降、この鳥はゴイサギとなったそうです。

 それにしても、今回出会ったゴイサギの眠りっぷりは、「平安のゴイサギも天皇の命令に従ったのではなく、ただ眠りこけていた間に捕(つか)まったのでは・・・」と思わせるほど見事なものでした。

文責 増田 克也


“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp