頭巾を被った癒し系


“ウソ”という名前の野鳥がいます。それはウソではなく本当の話です。私がこの鳥の名前を知ったのは、子どもの頃(ころ)でした。小学校の図書室で、何気なく手にした図鑑(ずかん)をぺらぺらとめくっていたところ、かわいい鳥の写真が目に飛び込んできました。丸っこい体に小さな目とくちばし、そして鮮(あざ)やかな赤色の喉(のど)。「え〜と名前は? ウソ!? 変な名前やなあ・・・」私とウソとの最初の出会いでした。

 そんな思い出のあるウソに、この冬も会うことができました。雪山へ車を乗り入れ道路の脇(わき)に駐車(ちゅうしゃ)していると、「パラパラパラ・・・」車のボンネットや屋根に何かが当たる音が聞こえます。折からの雪がアラレに変わったのかと思い、窓から顔を出して見上げれば、こちらに大きなお腹を向けた数羽のウソが、桜の枝先で花芽を食べていました
 アラレかと思った音は、ウソたちがついばんだ食べかすが車に降っていたのです。一切り花芽を食べ終えると「フィフィ〜」と口笛のような声を残し飛んでいきました。
 その後、車を降りて確認すると、ボンネットや屋根には食べかすがいっぱい。おまけにこんなありがたい置き土産まで・・・

 飛んでいったウソの行き先を探すと、山の斜面(しゃめん)で餌(えさ)を食べていました。こちらは、ウツギの実を食べようとしています。光の角度によっては、目がどこにあるのか全くわかりません。改めてウソを見ると、頭から黒頭巾(くろずきん)をすっぽり被(かぶ)り顔を覆(おお)い隠(かく)し、短い首には赤いマフラーを巻いて、グレーのコートを羽織っているような冬らしい装いをしています。

 房状(ふさじょう)に連なった、黄色いイタドリの実をついばむこのウソは、体をプックリと膨(ふく)らませ、見るからに暖かそうです。小さなくちばしにいっぱい付けた食べかすもご愛敬。

 ヘクソカズラの実を食べているのはメスのウソです。メスには赤いマフラーがありませんが、シンプルなモノトーンもなかなか味わい深いものがあります。
 太めのウソも、足元の実を逆立ちでもするように、体をぐーんと伸(の)ばして採るこのときばかりは、幾分(いくぶん)スマートに見えます。

 ウソたちは、厳しい冬を生き抜くために、日々、真剣勝負(しんけんしょうぶ)なのですが、彼らの振(ふ)る舞(ま)いや仕草を見ていると思わず微笑(ほほえ)んでしまいます。きっと、まあるい体のウソは、随分(ずいぶん)前にもてはやされた“癒(いや)し系”なのでしょう。

文責 増田 克也


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