湛水田にいらっしゃい
但馬の北部、豊岡市の田んぼに3羽のマガンがやって来ました。マガンはユーラシア大陸やアメリカ大陸の北部で繁殖(はんしょく)し、冬を日本などで過ごす渡り鳥です。しかし、どこでも見られるものではありません。日本では、宮城県の伊豆沼(いずぬま)で多くのマガンや水鳥が越冬(えっとう)することで有名ですが、近畿地方(きんきちほう)では一部の限られた地域にのみ飛来する程度でした。
この冬にマガンが飛来した豊岡市でも、何十年もの長い間マガンが越冬したことがありませんでした。それが2008年の冬から越冬するようになり、今年の3羽もこのまま春まで居着きそうな雰囲気(ふんいき)です。
マガンが豊岡市で越冬を始めた原因は、“コウノトリ育む農法”による“冬期湛水田(とうきたんすいでん) ”だと言われています。冬期湛水田とは、稲刈(いねか)りが終わった田んぼに、冬の間水を張る農法で、豊岡市周辺ではコウノトリの餌場(えさば)にする狙(ねら)いもあります。これがコウノトリの他にも、マガンやコハクチョウなどの野鳥たちを呼び寄せ、餌場やねぐらといった生活の場を提供しているのです。
さあ、それでは少しだけ3羽のマガンの様子をのぞいてみましょう。私が3羽と出会ったのは、午後3時半を少し過ぎた頃(ころ)でした。この日のマガンは、湛水田で羽の中に顔を突っ込みリラックスしていました。眠(ねむ)っているのでしょうか、双眼鏡(そうがんきょう)をのぞくと、しっかり目を開けて辺りを見回しています。人が接近するなど、少しでも気になることがあると、頭を上げさらに警戒(けいかい)し、ついには飛び出していきました。
マガンたちは一列に並び、カモの類とは段違(だんちが)いの力強い羽ばたきで、ぐんぐん遠ざかっていきます。このまま飛び去ってしまうのかと思いましたが、山の手前で大きな弧(こ)を描(えが)いてUターンし、再び同じ田んぼへ落ちるように舞(ま)い戻(もど)ると餌を探し始めました。
ところで、南但馬自然学校の周辺にマガンやコハクチョウがいるかというと、全く見かけたことがありません。これは冬期湛水田など、冬を過ごせる場所がないためでしょう。
ここでいいお知らせがあります。本校近くの朝来市山東町三保区の田んぼで、いよいよ今年から、冬期湛水田の試みが始められました。三保区では早くから環境(かんきょう)にやさしい農業に取り込まれ、南但馬地方では最初にコウノトリの人工巣塔(じんこうすとう)が建てられた地区でもあります。
三保区の湛水田では、水が入れられて幾日(いくにち)も経たないというのに、野鳥たちは敏感(びんかん)に反応し、早速、ケリやセグロセキレイなどが餌を探す姿がありました。
当地で始まったばかりの冬期湛水田。この取り組みが周辺に広まり定着し、これまで以上に、美味しく安全なお米と多様な生き物を育む場になってほしいものです。
文責 増田 克也
“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください