正に“JAPAN



 未だ朝日が届かない、谷間の薄暗(うすぐら)い山道を登っていくと、何やら道の脇(わき)にうずくまっているものがいます。じっと目を凝(こ)らして見るとそれはヤマドリでした。しかも立派なオスのヤマドリです。
 私の接近を察知するとすかさず、すくっと頭を上げました。いつものように、きびすを返しそそくさと山へ逃(に)げ込むものと思いきや、なんと道へ出てきたではありませんか。長い尾羽を上下に揺(ゆ)らし、一歩二歩と慎重(しんちょう)に足を進めると地面をついばみ始めました

 ヤマドリは、読んで字のごとく、山に棲(す)む野鳥でキジの仲間です。姿はキジに似ていますが

                     田んぼの畦を歩くキジ

、農耕地や河川敷(かせんしき)など平野部を好むキジに対して、ヤマドリは山地を住み処とし、開けた場所にはほとんど出てきません。
 繁殖期(はんしょくき)には、翼(つばさ)を羽ばたかせ、「ドドドドド」と音をだす母衣打(ほろう)ちを耳にすることがあり、すぐ近くにいても、なかなか出会えないのがヤマドリです。

 ヤマドリの特徴(とくちょう)はなんといっても、オスにある長い尾羽でしょう。以前、山で拾った尾羽に、メジャーを当てると73センチもありました。
 野鳥の全長は、くちばしから尾羽までの長さを表します。図鑑(ずかん)による とヤマドリの全長は125センチ程度ですから、優に半分以上が尾羽によって占(し)められていることになります。
 尾羽にまつわる、こんな面白いデータもあります。財団法人日本野鳥の会発行の著書「あなたもバードウォッチング案内人」では、日本産の野鳥《迷鳥を除く》に、全長の大きなものから順位付けがされており、これによるとヤマドリは、オオハクチョウ、タンチョウ、マナヅルに続く、堂々の第4位にランキングされています。見かけはニワトリほどのヤマドリが、とても太刀打ちできそうにない、体の大きなオオハクチョウや体高があるツルの類に、4位と大健闘(だいけんとう)したのは、ひとえに長い尾羽のお陰(かげ)なのです。

 ヤマドリの魅力(みりょく)は尾羽だけではありせん。光の当たり具合によっては金色にも見える体の色も見逃(みのが)せないところです。
 以前、出会ったアメリカ人のバードウォッチャーは、「体の色が“黄金の国ジパング”を、そして目の周りの赤は、“歌舞伎役者(かぶきやくしゃ)の隈取(くまど)り”を想像させる日本固有種のヤマドリは、正に“JAPAN”そのものだ」と話していました。

 この日、撮影しながら、ふとそんなことを思い出し“JAPAN”のイメージに浸(ひた)ろうとしていると、普段は滅多(めった)に通行のない山道にトラックが・・・
 いつも生き物との出会いは突然(とつぜん)に、そして別れはあっけなくやってくるものです。まさかトラックのドライバーを恨(うら)むわけにもいかず、後ろ髪(がみ)を引きずられる思いでその場を後にしました。

文責 増田 克也


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