冬鳥来る



 季節外れの台風14号の余波が残る暗い週末のこと、田んぼの上を右往左往して飛び回る小鳥の群れがありました。これは、ロシアやシベリアなど北国の繁殖地(はんしょくち)から越冬(えっとう)のために、遙々(はるばる)と海を越(こ)えて渡ってきたアトリの群れです。
 アトリたちは、田んぼに下りて餌(えさ)をついばんでいましたが、何かに驚(おどろ)いたように一斉(いっせい)に飛び立ち、私の真上にある電線へ次々にとまったものの、僅(わずか)か数秒ほどで、「ドドッ!」いう羽音を残して再び飛び去っていきました。

 ぽかんと口を開け呆気(あっけ)にとられていると、次の瞬間、アトリがとまっていた同じ電線に、ハトほどの鳥がやってきました。チョウゲンボウです。
 チョウゲンボウはタカの仲間で、当地には冬に渡ってくる野鳥です。なるほど、これでアトリたちが血相を変えて飛び出していった訳がわかりました。アトリはチョウゲンボウに追い立てられていたのです。

 このチョウゲンボウも、すぐに獲物(えもの)を追いかけて、すっ飛んでいくのかと思いましたが、妙(みょう)にリラックスした様子で、ついには羽づろいをはじめました。
 しかし、真上にとまったチョウゲンボウは大変見づらく、撮影もままなりません。そこで、車をじわりじわりとバックさせて距離(きょり)を取り、羽づくろいの様子を観察することにしました。

 まずは、羽をふくらませてブルブルと全身を震(ふる)わせると、左右の翼(つばさ)をくちばしで丹念(たんねん)に梳(す)き、足の手入れにも余念がありません。次に翼を持ち上げ小さく伸(の)び上がると同時に用足しをして、仕上げは尾羽を扇形(おうぎがた)に広げて一丁あがり! 少し間を取り「さあ、これで準備完了!」とばかりに大きく羽ばたき飛び出していきました

 アトリやチョウゲンボウ、当地で越冬する野鳥たちに、抜(ぬ)かりなく移りかわる季節を感じながら帰路に着けば、再び降りはじめた雨を体に弾(はじ)かせたジョウビタキが尾羽を震わせていました。

文責 増田 克也

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