クマの気配



 この秋、日本各地でツキノワグマによる被害(ひがい)が相次いでいます。本校がある朝来市山東町でも、防災無線が連日のように出没情報(しゅつぼつじょうほう)を伝えていますが、本当にクマは人里に出てきているのでしょうか? そこで、山東町とその周辺でクマの痕跡(こんせき)を探してみることにしました。

 人家の近くに広がる田んぼの畦(あぜ)に植えられた、人の背丈(せたけ)ほどのカキの木に小さな“クマ棚(くまだな)”がありました。クマ棚とは、クマが木の実を食べるために枝を折った跡(あと)のことです。
 その際、枝を自分の方へたぐり寄せ、体の下へ敷(し)いて平らにするので、私はクマ棚を「クマの座布団(ざぶとん)」と呼んでいます。時には、ごろっと昼寝でもできそうな、座布団数枚分もの大きなクマ棚ができあがることもあります。

 山際にあるクリの木にもクマ棚が2ヶ所ありました。ここは以前、栗畑(くりばたけ)だったところで、今でも多くのクリの木が放置されています。遠くから一見しただけでも、クマが枝を折ったり小さな棚を作ったりと、おびただしい数の痕跡が見て取れます。この一帯はクマのパラダイス、これでは餌付(えづ)けをしているようなものです。

 極めつけは、無造作にアスファルト道路に落とされたこの大きな糞(ふん)です。状態からみて昨夜のものでしょうか、ソフトボールほどもある赤茶色の糞は、人家のすぐ側で甘(あま)いカキの香りを放っていました。
 その数十メートル先にも、やはりカキの実100%の糞が落ちています。おそらく同じ個体のものでしょう。ここは人や車が行き交う生活道路です。

 人家周辺の、クマ棚や糞といった痕跡を見る限り、クマは確実に人の生活圏(せいかつけん)で暗躍(あんやく)しています。今のところ南但馬自然学校がある山東町迫間区では、クマの目撃(もくげき)はおろか痕跡すら確認されていませんが、状況(じょうきょう)は予断を許しません。
 本校ではクマ対策として、単独で行動しない。山へ入るときはクマ避(よ)けの鈴を携帯(けいたい)する。テント泊(はく)やナイトハイクなど夜間、早朝に行う活動を制限することとして、利用校の協力を得ながら対応しています。

 この秋のクマ騒動(そうどう)は、この先クマたちが眠(ねむ)りに就くまでの一月余り、もうしばらくの間続くような気がします。

文責 増田 克也


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