完全防備



 但馬ふるさと館から野外キッチンへ向かう坂道を通りかかると、たくさんのカキの葉っぱが落ちています。「もしかして・・・」道端(みちばた)の葉っぱを見つめる視線を、首をすくめて恐(おそ)る恐る上に向けると、いるわいるわ、そこにはおびただしい数の毛虫が葉っぱを貪(むさぼ)っていました。

 この毛虫は、ヒメクロイラガの幼虫で、カキやサクラ、ケヤキといった広葉樹の葉っぱを食べる害虫です。体には毒針(どくばり)を持ち、これに刺(さ)されると電気ショックのような激しい痛みが走り、皮膚炎(ひふえん)を起こすので注意が必要です。

 ヒメクロイラガが葉っぱを食べる様子は、誰(だれ)かが号令でもかけたように横一列に並び、葉の裏から表をのぞき込むようにして一斉(いっせい)に食べていきます。葉っぱは、見ている間に小さくなりヒメクロイラガの胃袋(いぶくろ)に収まっていきます。この凄(すさ)まじい勢いで食べ進むと、高さ3メートルほどのカキの木など、あっと言う間に丸裸(まるはだか)にされてしまうことでしょう。
 
 食べている時に、よく目立つのが体にあるトゲです。このトゲの作りは巧妙(こうみょう)で、体から角のように生えた黄色い突起(とっき)に、更(さら)に多くの黒いトゲを装備しています。この構造なら、どちらの方向から外敵に襲(おそ)われても、トゲを突き立てることができますね。中にはこのトゲの先端(せんたん)が毛のように細く尖(とが)っているものもありました。

 人間の感覚ではヒメクロイラガはお世辞にも愛らしいとは言えません。しかし、この姿も自然から与(あた)えられた身を守る術(すべ)のなせる技なのでしょう。

文責 増田 克也


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