美しく逞しく



 風にもてあそばれる木の葉のように、複雑な軌道(きどう)を描(えが)きながら飛ぶチョウが、遠くウリハダカエデの葉にとまりました。「もしかしてゼフィルス?」慌(あわ)てて望遠鏡を覗(のぞ)くと、「やっぱりそうだ!」浅いV字に保った羽のブルーが見え隠(かく)れしています。
 ゼフィルスとは、ギリシャ神話の西風の精“ゼフィロス”が由来となった、森林に棲(す)むミドリシジミ類の総称(そうしょう)です。この仲間は“森の宝石”と言われるほど羽の色が美しいものが多く、大変人気があるチョウでもあります。

 「もっと近くで見たい・・・」するとどうでしょう、ゼフィルスに願いが通じたのか、サッと飛び立ち私の足元から崖下(がけした)に向かって茂(しげ)る、ヤマアジサイの葉にとまってくれました
 羽を広げると約4p、美しいメタリックブルーの羽に小さなシッポ、このゼフィルスはオスのジョウザンミドリシジミです。

 その後、15分近くが経過しましたが、ジョウザンミドリシジミは、ヤマアジサイを離(はな)れることなく、葉の上でじっと動かずにいます。「この場所は、繁殖(はんしょく)のために設けた縄張(なわば)りの見張り台なのだろう」と思ったその瞬間、目にも止まらぬ早さでスクランブル発進!

 すっ飛んで行った先に目をやると、2頭が上になり下になり、時にぐるぐる回転しては複雑にもつれ合っています。1分ほどの激しい空中戦の末、ついに侵入者(しんにゅうしゃ)を追い出し見張り台へ戻(もど)ってきました。
 戦いを終えた彼(かれ)の右羽は、大きく傷つきましたが、再び、何事もなかったように縄張りに視線を向け、ひたすら監視を続けています。美しい森の妖精(ようせい)ゼフィルスに野性の逞(たくま)しさを感じた瞬間(しゅんかん)でした。

 それではみなさんにも、彼の視線の先にある景色をご覧いただいて、縄張りを懸命(けんめい)に護るゼフィルスの気分に浸(ひた)っていただきたいと思います。

文責 増田 克也


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