落とし物はマイクロチップ



 まずは上の写真をご覧ください。これはいったいなんでしょうか、クリスタル?、新進気鋭(しんしんきえい)のアート?、それともオブジェ? いいえいいえ、どんなに贔屓目(ひいきめ)に見てもただの骨です。

 では、この骨がどこにあったかというと、生活棟の周辺に設置された道しるべの上に、だれかがイタズラで小石でも置いたように、一塊(ひとかたまり)になってちょこんと乗っかっていました
 「ひょっとしてペリット?」思わずのぞき込むと、何やら煮干(にぼ)しのようなツンとした臭(にお)いが鼻を突(つ)きます。そして看板の下には、白くべったりとした糞(ふん)が落ちていました。

 ペリットとは、餌(えさ)を食べた野鳥などが、消化できなかったものを、塊りにして口から吐(は)き出したものです。
 この小指の先ほどの小さな塊を、そっと手のひらに乗せて持ち帰り、早速、ルーペでのぞくと、やはり細かい骨や鱗(うろこ)が団子状に固まったペリットでした。

 ペリットの中を調べようと、ピンセットの先で突(つつ)いてみましたが、ビクともしません。まるで接着剤(せっちゃくざい)でくっつけたようにしっかりと固まっています。ところが、水に浸(ひた)して、2度3度と突くと、さっきまでの強固な姿はどこへやら、見る見るうちにハラハラと崩(くず)れてしまいました。更(さら)に台所用漂白剤(だいどころようひょうはくざい)で洗浄(せんじょう)し、ひとつひとつを見ていくと、どうやらこれは小魚の骨のようです。

 このペリットの落とし主は、大きさや内容物、そして看板の下にあった糞を合わせて考えると、おそらくカワセミだと思われます。小魚などを捕(と)らえて食べるカワセミは、水辺に棲(す)むイメージが強い野鳥ですが、今回のことから、山の中にある南但馬自然学校にも立ち寄っていることがわかりました。ひょっとしたら、校内のどこかで巣を構えている

                山の斜面に穴を掘り営巣するカワセミ

のかも知れません。

 偶然(ぐうぜん)見つけた、たったひとつのペリット。それは、カワセミの存在や暮らしぶりまで想像させてくれる、様々な情報を詰(つ)め込んだマイクロチップのようです。

文責 増田 克也


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