池の中では



 朝来山のふもとには、木々に囲まれた小さな池があり、自然学校で本校を訪れる子どもたちには人気のスポットになっています。春本番を前にそっと水の中をのぞいてみると、さっそくアカハライモリがいました。すると、あくびでもするようにいきなり大きく口を開け「冬眠(とうみん)から覚めたばかりで、まだ眠(ねむ)たい・・・」とでも言いたげに、愛嬌(あいきょう)たっぷりな表情を見せてくれました。

 アカハライモリは、名前が示すように赤いお腹の模様が特徴(とくちょう)です。この模様は、地域や個体によって様々で、赤味が強いものや、逆に黒い部分が多いものなど色々なバリエーションがあります。
 身体の色は赤と黒だけではありません。繁殖期(はんしょくき)に近づくとオスの尾が徐々に青くなってきます。この池のアカハライモリには、すでに尾が薄(うす)い青色に変化しているものがいました。もう少し暖かくなると、オスが後脚(あとあし)でメスの体を押さえつけ尾を震(ふる)わせる、プロポーズのダンスが見られることでしょう。

 池の底には周りの木々から落ちた沢山の葉っぱが積み重なっています。岸に近い砂地にも、数枚の葉っぱが沈(しず)んでいました。すると、どうしたことでしょう、この葉っぱが連なったまま、少しずつこちらへ向かって来るではありませんか。目を凝(こ)らして見ると、葉っぱの下で何やらうごめくものが見え隠(かく)れしています。
 動きがピッタと止まったところで、横側に回り込み待っていると、葉っぱの下からぬう〜っと上半身を繰(く)り出し砂底を探りはじめました。
 正体見たり!これは、暖かくなると羽化するトビケラの幼虫で、エグリトビケラの一種だと思われます。葉っぱを貼(は)り合わせ上手にマイホームを作るトビケラの幼虫は、さしずめ水中のミノムシと言ったところでしょうか。

 先ほどから、水面をアメンボのようにスイースイーと滑(すべ)っていくものがいます。この体長1pほどの小さな虫はマツモムシという、池や沼(ぬま)に棲(す)む昆虫(こんちゅう)です。写真を撮ろうと何度も接近を試みましたが、オールに似た長い後脚でボートを漕(こ)ぐようにして、たちまち逃げられてしまいます。
 それならばと、岸に腹ばいになりマツモムシが近づいて来るのを待つことにしました。すると待つこと約30分、ようやく手が届きそうな距離(きょり)までやって来て、後脚を大きく開閉する得意の背泳ぎを披露(ひろう)してくれました。
 こんなにユニークなマツモムシですが、昆虫や小魚の体液を吸うため針のような鋭(するど)い口を持ち、人が不用意に触(さわ)ると刺(さ)されることがあるので観察には注意が必要です。

 他にも、群れで泳ぐメダカや、水底でじっと獲物(えもの)をねらうヤゴの姿もありました。この池では、特別に道具などを使わなくても、ただ静かに水中をのぞいているだけで、いろいろな生き物を観察することができます。みなさんも身近な池に出かけてみてください。楽しい生き物との出会いがあるかもしれませんよ。

文責 増田 克也


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