巣箱が教えてくれたこと



 南但馬自然学校の大屋根広場には、4つの巣箱が取り付けられています。先日、この巣箱の中をきれいに掃除(そうじ)しました。これは、今春の利用に備え、昨年、小鳥が持ち込んだ巣材を取り出す作業です。

 巣箱の全面を開くと、巣材がびっしりと詰(つ)められていました。巣材は2層構造になっており、下層のコケはシジュウカラ

                  巣材の獣毛を運ぶシジュウカラ

ヤマガラ

         巣箱のヒナに餌を運ぶヤマガラ

といったカラ類が持ち込んだもので、上層の枯(か)れ草やビニルひもはスズメが集めてきたものです。他の巣箱も、やはりコケと枯れ草が詰められていました。これは、先に巣作りを始めたカラ類を体力に勝るスズメが追い出し、コケの上に枯れ草を敷(し)き自分たちの巣に仕立てているのです。
 この写真は数年前に撮影したものですが、巣材を取り出して調べると、コケと枯れ草の間から、ヤマガラの死骸(しがい)が出てきました。ヤマガラは巣箱の中でスズメとの戦いに破れ命を落としたのでしょう。スズメはヤマガラの上にさらに枯れ草を敷きつめ子育てを行ったのです。

 そもそもこの巣箱は、カラ類が利用してくれることを願い、入口の穴をカラ類がどうにか入れる、直径28oにして作りました。つまりカラ類よりも身体が少し大きいスズメは入れない設計になっています。では、なぜスズメは中へ入れたのでしょう。それは巣箱を見ると一目瞭然(いちもくりょうぜん)、穴の周りをくちばしでつつき入口の拡幅工事(かくふくこうじ)をしていました。

 みなさんの中には「入口を広げカラ類を追い出すとは、なんてスズメはひどいやつだ!」と思われる方もあることでしょう。しかし、自然の営みを人間の感覚で推し量り、感情的になるのは禁物です。
 聞くところによると、近年のスズメたちは住宅難だと言われています。昔は瓦(かわら)の下や軒下(のきした)など、民家のちょっとしたすき間に巣をかけていましたが、このところ、機密性の高い住宅が増えたことがその原因の1つだそうです。巣箱を乗っ取るスズメにもそれなりの理由があるようですね。

 巣箱が教えてくれたこと。それは私たちが気付かないうちに身近で起こった、可愛らしい小鳥たちの厳しい現実でした。

文責 増田 克也


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