初夏の山へ



 6月9日、近畿地方(きんきちほう)に梅雨入りが発表されました。「只今(ただいま)、梅雨まっただ中」のはずですが、先週までは雨が少なく、結構(けっこう)いいお天気が続きました。「ひょっとして今年は空梅雨?」心配しながら山の様子を伺(うかが)いに出かけてみました。

 まず、迎(むか)えてくれたのは、水色の花をつけたヤマアジサイです。園芸品種のような豪華(ごうか)さはありませんが、日光を避(さ)け木陰(こかげ)でひっそりと咲くヤマアジサイは“梅雨の花”の代表です。

 ふと気付くと、どこからかいい香りが漂(ただよ)ってきます。どうやらこの香りはユリのようです。辺りを見回すと、白い花をうつむき加減に咲かせたササユリをすぐに見つけることができました。控(ひか)え目で慎(つつ)ましい花が多い山野草の中で、立派な花を開いたササユリは女王の風格です。

 涼しげに水が流れる沢筋では、3種類の花を見ることができました。
 岩にへばりついたミズタビラコは、小さな水色の花を咲かせ、大きく切れ込んだ手のひらほどの葉を広げるギンバイソウは、ピンク色のつぼみを少しだけのぞかせています。草丈(くさたけ)が人の腰(こし)ほどもあるトリアシショウマは、そよ吹く風に綿雪のような花を右へ左へと揺(ゆ)らせていました。

 沢から離(はな)れしばらく進むと、差し込む木漏れ日(こもれび)に透(す)けた葉を日傘(ひがさ)にしたセミの抜け殻(がら)を見つけました。これは6月ころから羽化をはじめる、市街地などではまず見られない山に棲(す)むセミ“エゾハルゼミ”のものです。

 いくつかの花に出会い、雨は少なくとも山の季節は確実に梅雨へと移りかわっていることを感じ、エゾハルゼミの合唱に送られながら初夏の山を後にしました。

文責 増田 克也

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