渓流で子育て



 水のきれいな渓流(けいりゅう)にはミソサザイという、こげ茶色をした、それはそれは小さな野鳥が棲(す)んでいます。体長は、約11pとスズメよりずっと小さく、日本の野鳥の中では最小の部類になります。
 小さいミソサザイの動きは、大変せっかちです。石や倒木(とうぼく)にとまっているときにも、尾羽をピンと立て、体を常にピョコピョコと上下左右に揺(ゆ)さぶり、少しもじっとしていません。その身軽さは、垂直の幹につかまってとまることなど朝飯前です。
 体はこんなに小さいミソサザイですが、さえずる声は元気いっぱいです。複雑な節回しの甲高(かんだか)い声は、激しい水音にもかき消されることなく渓流に響(ひび)き渡ります。

 先ほどから辺りを行ったり来たりするミソサザイをよく見ると、くちばしに虫をくわえています。目で追うと、どうやらヒナに餌(えさ)を運んでいるようです。

 では、ここでみなさんにクイズです。この写真にはミソサザイの巣が写っていますが、どこにあるかわかりますか? 答えは、○で囲んだスギの枯葉(かれは)の部分が巣です。これまで、倒木の下や岩のすき間に作られた巣は見たことがありましたが、こんなところにかけられたものは初めてです。
 対岸へ回り込み望遠鏡でのぞいてみると、コケで作られたボールに枯葉を編み込み、上手にカムフラージュされた巣の奥には、2つの黄色いくちばしが見え隠(かく)れしています。

 ほら、親鳥がやって来ました。くちばしにくわえた餌は、羽と触角(しょっかく)からみてトビケラの仲間のようです。親鳥は一旦(いったん)、枝などにとまり辺りの様子をうかがうと、一気に巣まで飛び上がりヒナに餌を与えます。普段はほとんど動かないヒナたちも、この時ばかりは大きく口を開けて餌のおねだりをします。
 ヒナが餌をすっかり食べてしまっても、親鳥はなかなか巣から飛び去ろうとはしません。それは、この後に大切な仕事があるからです。では、こちらの写真をみてください。親鳥が白いものをくわえていますね。これはヒナの糞(ふん)です。親鳥は巣を清潔に保つために、ヒナが糞をするのを待ち巣の外へ運び出しているのです。

 数日後、再びこの場を訪れると辺りに親鳥の姿はなく、巣の中も空っぽになっていました。きっとヒナたちは無事に巣立っていったことでしょう。

文責 増田 克也

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