新緑の山へ



 梅雨に入る前のこの時季は、春に芽吹いた若葉も大きく成長し、いっそう濃(こ)くなった山の緑が目にしみいるようです。さあ、一年の中でも絶好の散策シーズンが到来(とうらい)しました。こんないい季節に山に行かない手はありません。今週の“自然のページ”は新緑の季節に出会った植物などを紹介(しょうかい)しましょう。

 茂(しげ)った葉が太陽の光をさえぎる薄暗(うすぐら)い登山道に、パッと明かりがついたように花を咲かせたのは、上の写真にあるユキザサです。このユキザサという名前は、雪のような白い花と、笹(ささ)に似(に)た葉っぱの形に由来しているそうです。花を眺(なが)めると雪の結晶(けっしょう)にも見えてきます。
 それにしても、この白い花を雪にたとえた昔の人の感性は素晴らしいですね。改めてユキザサを見つめると、しばらく遠い昔にタイムスリップしたような不思議な気分にさせられました。

 次に目に付いたのは、斑入(ふい)りの丈夫(じょうぶ)そうな葉っぱを左右に広げたホトトギスの仲間です。花はまだなく、7〜8月の開花時季に備えて、「ただいま準備中」というところでしょうか。夏には、二段重ねの豪華(ごうか)な花

       昨年8月に咲いたヤマジノホトトギス

を見せてくれることでしょう。

 薄暗い山の中にあって、ツヤツヤした葉っぱを鏡のように輝(かがや)かせているのは、その名もイワカガミです。残念なことに、花は一月前に終わっていますが、光る葉っぱを見ているだけでも、歩き疲(つか)れた体に元気を与(あた)えてくれるようです。

 さらに山を上がると、ギンリョウソウというユニークな形をした植物に出会いました。このギンリョウソウは葉緑素を持たないのでこんなに白い姿をしています。今はお辞儀(じぎ)をしていますが、やがて起き上がり白馬のような花

         馬の顔のような花をつけたギンリョウソウ 2006年5月撮影

を咲かせます。

 足元の草花ばかりを気にして、うつむき加減に歩いていると、突然、頭の上で「ビィヨー、ビィヨー」と薄気味悪(うすきみわる)い大きな声が響(ひび)いてきます。見上げると、この辺りでは冬にしか見かけないはずの、ウソという野鳥が聞いたこともない声で鳴いていました。冬のウソは「フィーフィー」と、ささやくような柔(やわ)らかい声で鳴きますが、今回の声は、縄張(なわば)りを示したりメスにアピールするための繁殖期(はんしょくき)に聞かれる“さえずり”だと思われます。

 いろいろなものに目を奪(うば)われながら歩いているうちに、山頂の近くまで登っていました。するとそこには、山の中腹で葉っぱしか見られなかった、イワカガミの花が二株だけ残っていました。涼(すず)しげに風に揺(ゆ)れるピンクの花に「頂上はすぐそこだよ」とメッセージをもらったように感じました。

文責 増田 克也


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