バン(幼鳥) 08.07.22




足ひれがない水鳥



 太陽がちょうど真上に来る頃(ころ)、与布土川(ようどがわ)に立ち寄るとハトくらいの大きさのバンという野鳥に出会いました。このバンは全身の色が薄(うす)く、くちばしも赤くないので、親鳥と離(はな)れて独り立ちしたばかりの幼鳥(ようちょう)です。

 ところが幼鳥にしては用心深く、こちらの存在に気付くとトレードマークの白いお尻(しり)を向けて、そそくさと茂(しげ)みに隠(かく)れてしまいました。そこでバンが警戒心(けいかいしん)を解いて出てきてくれるのを待つことにしました。

 どれくらい時間が経ったでしょう。川の流れに揺(ゆ)れる藻(も)の中でうごめくものが見えました。なんとそれは、柔(やわ)らかい甲羅(こうら)を持ったカメの仲間、スッポンでした。スッポンは最近、数が減っているようで、兵庫県版レッドデータブックでは「要調査種」とされています。水面から首を長く伸ばし、辺りの様子を伺(うかが)っていました。

 こちらを気にしながらスッポンの近くを、泳いでいくのはカルガモです。背中にはまだ綿帽子(わたぼうし)のような羽毛が残り、体の割りに頭が随分(ずいぶん)大きく見えるこのカルガモも、今年の春に生まれた幼鳥です。泳いでたどり着いた先は、やっぱり安心できる茂みの中でした。

 そのとき、カルガモと入れ替わるように、やっとのことで茂みの奥からバンが顔を出しました。するとどうでしょう、先ほどとは打って変わり大胆(だいたん)に泳ぎ出すと、そんなに長くない首を水中に突っ込んで藻を食べ始めました
 
 バンの様子を観察していると、他の水鳥との違いに気付きました。まず、泳ぎ方です。カモなど多くの水鳥は、ほとんど体を動かさずスイーッと泳ぎますが、バンはハトが歩くように首を前後に振(ふ)りながら泳ぎます。そして意外なことに、足には水かきがなく、その形はニワトリのようで水鳥らしさをまったく感じません。

 それもそのはず、バンは1981年に沖縄(おきなわ)で発見されて話題となった地上性の野鳥、ヤンバルクイナと同じクイナ科です。バンの水かきのない頑丈(じょうぶ)な足や、首を振り地上を歩くような泳ぎ方をみると、かつて彼(かれ)らもヤンバルクイナのように野山を駆(か)け回り暮らしていたのでしょう。

 梅雨が明け、勢いを増した太陽の下、与布土川で出会った幼いバンのルーツに思いをはせる一日でした。

文責 増田 克也


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