30『何者』朝井 リョウ 留学や休学、バンド活動に専念しすぎて、また前年度の就職活動の失敗により大学五年生で就職活動をすることになった者、5人の物語。 「何者」かになれると信じ頑張る者。諦めなければならなかった者。頑張ることを「かっこ悪い」と傍観者で居続ける者。就職活動を通して、彼らは何を思い、何を感じるのか。 彼らは「何者」かになれるのか。 |
|
31『ちいさな言葉』俵 万智 『サラダ記念日』(1987年)で有名な俵万智のエッセイ。2003年に誕生した愛息子との日常を書き綴ったもので、微笑ましくもあり、驚いたりもする(息子の言葉のセンスがすごい)。以下、本文抜粋。 「おかあさんは、ボクのこと好き?」 「うん、大好き。世界で一番好き」 「世界で一番?」(不満顔) (略) 「じゃあ、なんかわかんないけど、ブラックホールも入れて好き」 「ぶらっくほーる?」(まだ不満顔) ○○で一番好き、を言っていたら、息子がふと真顔で聞いてきた。 「じゃあ、未来で一番好き?」 「み、みらい!?」 もしこれが、恋人同士の会話だったら、そうとうに怖いものではないだろうか。相手に、出会いの |
|
32『書店ガール』碧野 圭 ※2015年4月〜『戦う!書店ガール』としてドラマ化。 副店長の「理子」はバイト時代を経て社員となった叩き上げの書店員。「亜紀」はバイトを経ずに、コネで社員となった天真爛漫な本好き書店員。年齢も、性格も、人生経験も異なる二人の共通する点は「本を愛している」ということ。そんな二人を中心に吉祥寺の老舗書店「ペガサス書房」を舞台都市、書店員の仕事、私生活リアルに描く。(2巻以降もあります。) |
|
33『こうばしい日々』江國 香織 大介(ダイ)は、二歳の時からアメリカで生活し、パパの意向でアメリカ国籍となった。アメリカ人として生きる大介には、気になる女の子「ジル」がいる。 姉の麻由子は高校卒業後にアメリカへ来た。麻由子はダイとは違い、日本の方がお気に入り。にもかかわらず、ボーイフレンドは典型的なアメリカ人のデイビット。 大介の日常を中心に、甘酸っぱく鮮やかに描かれる作品である一方で、日本とアメリカが奇妙に絡み合っている感じがする。本書収録の「綿菓子」も合わせて読んでみるべし。 |
|
34『浮浪児1945―戦争が生んだ子供たち』石井 光太 石井光太の確かな取材と人間味ある文章はいつも何かを訴えてくる。 1945年3月10日未明、東京大空襲により、東京の下町が丸ごと焼夷弾で焼き尽くされ、炭化した死体が東京湾まで累々と連なった。その後も各地で幾度も大空襲があり、多くの人々が家を、財産を、家族を失った。中には、両親、兄弟を失った(生き別れた)子どもも多くいた。終戦当時7歳に満たない子、空襲のショックから自分の名前さえ思い出せない子など様々な孤児が存在した。彼らは東京「上野駅」に住み着くようになり、そこで物乞いや靴磨き、新聞売り、身売りなどをして、「がむしゃら」に生きた。酷く、逞しく。 70年前の日本の現実を知らなければならない。「知らなかった」で済ますべきではない。彼らの生き方から何かを感じ、学び、思いを馳せる必要がある。この人たちが今の日本を作った一人なのだから。 |
|
35『ラブレス』桜木 紫乃 百合江は70代半ばで「老衰」との診断を受け、死の床に就く。その手には「杉山綾子」と書かれた位牌が強く握られ、自宅には謎の白髪の男性が。 百合江は幼くして両親・弟たちと開拓地、北海道の標茶に移り、貧しいながらも夢を追いかけていた。だが、その夢もあっさり破れることになる。その後の百合での波乱万丈な人生と「杉山綾子」・白髪の男性との関係は。また妹の里実、母ハギといった女性登場人物が互いの人生に複雑に絡み合い、厚みを増していく。 ただ百合江の「行雲流水」といってもいい生き方には、不思議と暗さを感じない。 |
|
36『スープカレー』高橋 美夕紀 一日あれば読み終わります。そしてホッコリできます。 大学時代、演劇サークルで同じ時を過ごした5人。大学卒業後、彼らはそれぞれの人生を歩むことになる。演劇を続ける者、百貨店の販売員、料理研究家、塾講師、冠婚葬祭プランナー。それぞれが踏み出す次の一歩はいかなるものか。 さらっとしているけど、コクがあって、スパイシー。スープカレーのような生き方、いいかもしれない。 |
|
37『ぼくはナチにされわれた』アオイズィ・トヴァルデツキ 時は第二次世界大戦中。「レーベンスボルン(生命の泉)」は戦死した親衛隊の子どもとその母親を保護すると宣言したが、その活動はこれにとどまらなかった。組織的に「遺伝的素質の優れた」女性に「優れた」男性との子どもを出産させただけでなく、他国から(金髪で青い目の)子どもを誘拐し「ドイツ化」させ、ドイツ人家庭へ養子に出した。誘拐された幼い子どもたちは、やがて自国の父母を忘れ、母国語を忘れ、ドイツ人であることに疑いを持つこともなく、自国を敵国としてみなすようになった。 著者はポーランド人であったが、4歳の時に拉致され、ポーランドの実母の懸命な捜索により15歳の時にポーランドに戻ることになる。ただ自分がポーランド人であることは覚えておらず(まして戦中はホーランドを敵視し蔑んでいた!)、激しい葛藤に苦しむことになる。ポーランド人たちは、ドイツの教育を 受け、ポーランド語を上手く話せなかった彼を「ドイツ人」と呼び、ドイツでは彼を「ポーランド人」と呼ぶ。 時代に翻弄された被害者が自ら語る、衝撃的な作品。拉致被害者が存在する国、日本。この声を我々日本人はどう受け止めるのか。 |
30〜37