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   『窓の魚』西 加奈子(星陵図書館にあり)

 『あおい』『さくら』『きいろいゾウ』が主な作品としてあげられる西加奈子。『さくら』は泣きながらページをめくった。しかし『窓の魚』は少し違う。推理小説のようで推理小説ではない。だから謎を解いた時の爽快感はない。あるのはどうしようもない絶望感。でも、それは完全な絶望を書いたものではない。かすかな希望のような、光があるような、そんな感じ。
ところで、これは殺人事件だったのか?

  『友情』武者小路 実篤(星陵図書館にあり)

 ラブレターがすごい。こんな熱烈なラブレターを現代人は書けるのか? メールや電話とは違った手紙ならではの強い表現は圧倒される。1919年に発表された作品。友情、恋愛、結婚、社会問題、芸術、文学・・・様々なテーマが盛り込まれている。中でも注目してほしいのは友情、恋愛、結婚に対する登場人物達の心情や考え方。明治・大正時代が少しはわかるかも。

  『また会う日まで』柴崎 友香
次の「」内は本文の一部分。□に入ることばは何かな?
「液晶画面を見たとき、そこに写っているのは今の瞬間なのに前に録ったビデオを見ているような、というよりも、その画面を通して見る周りのものが、もうすでに『思い出』の一場面になってしまったような感じがして、それだけが理由ではないけれど、あの感覚を思い出すとなかなか□□□□□□□を手にできない。」
柴崎友香の小説には独特の視点がある。「ふつう」の日常を「鮮やか」な日常に変えてくれる。「ふつう」が「ふつう」と言えなくなる気がする。新しい、今まで知らなかった物の見方をさりげなく教えてくれる何かがある。
   『ゴースト・ストーリー傑作選 英米女性作家8篇』(星陵図書館にあり)
「ゴースト」小説 です。
日本では馴染みがないけど、英米では非常に人気のあるジャンル。これらの小説には確かにゴーストがいて、確かにその中に生きる人は不思議な何かに引き寄せられ、不思議な何かに運命が動かされたりもする。本当の話ではない? 本当にそんなことは起きない? 99%そう思って読み進めるが、残りの1%でゾッとする。そんな話ばかり。
   Story Seller2(星陵図書館にあり)

これを読む前に、ぜひ『Story Seller』『 Story Seller2』を読みましょう。そうすればいっそう楽しく読めます。ちなみに近藤史恵「ゴールよりももっと遠く」、米澤穂信「555のコッペン」が『Story Seller』『 Story Seller2』からの続きもの。お気に入りの作家と出会えるかも? 色んな作家の短編小説が一気に読める。お得な本です。

   『るり姉』 椰月 美智子(星陵図書館にあり)

「るり姉」は何歳?  「るり姉」の仕事は?  「るり姉」の病気は? 「るり姉」が離婚した理由は?  「るり姉」は何を思うのか?    
「るり姉」を知るには、「るり姉」の周りにいる人々が語る内容から推測しなければならない。その人たちがそれぞれの物語を語るが、「るり姉」が語る物語は一切無い。だけど、それぞれの家族が語る物語には必ず「るり姉」が印象的に登場する。「るり姉」が登場すると内容問わず、なぜか物語に花が咲いたような、ぱっとした明るさが漂う。心地よい読書ができる感じ。

  『感染宣告 ―エイズウイルスに人生を変えられた人々の物語』石井 光太 (星陵図書館にあり)

HIV感染は、ウイルスそのものではなく、ウイルスが人間の醜悪な部分をことごとくあらわにして極限にまで追いつめることに恐ろしさがあるのだ。」   
現在HIV感染は完治こそしないが、発病をかなり遅らせることができるようになっている。「エイズウイルスと付き合いながら生きる」ことが出来、もはや死の病ではない。それなのにエイズウイルスは、今でも深刻な病であることには変わらない。ウイルスが体に蔓延すると同時に、その人の周囲の環境や心へ深刻なダメージを与える。ウイルスで死ななくても、自ら命を絶つ人もいる。今なお増加しているHIV感染。それと向き合うことになった人々の壮絶な生。遠い国での出来事ではなく、これは日本で起こっていることだ。他人事ではいられない。

  『遺体 地震、津波の果てに』石井 光太(星陵図書館にあり)

平成23年3月11日、三陸沖にマグニチュード9.0の地震が発生した。その後、津波が発生し死者・行方明者は二万人を超えた。
岩手県釜石市では千人近くの犠牲者が出た。釜石市は「海辺のマチ」と「内陸側の工業地域」という全く違う風景を持つ土地であった。その「マチ」は津波により甚大な被害をうけ多くの犠牲者が出たが、「内陸側」の被害が少なかったため犠牲者の遺体の捜索、運搬、管理、身元調査、家族との対面、火葬までを同じ釜石市民が行っていた。市民たちは地震発生前まで犠牲者と共に釜石市で生活していた人達であり、もちろん運ばれてくる遺体の中には見知った顔もあった。悲しみ苦しみ自責の念が押し寄せる中、生き残った者たちは自分に与えられた仕事を懸命にこなしていく。自らも被災者であるにもかかわらず、だ。ニュースではわからなかった被災の現実がここにはあり、決して風化させてはいけないと強く思う。

  10『ノラや』 内田 百(星陵図書館にあり)

内田百閧ノ共感できますか?著者は明治二十二年に生まれ、夏目漱石の門下生となり、後に芥川龍之介とも親交のあった作家だ。『ノラや』は、昭和三十二年に失踪した愛猫を思って書かれた随筆であり、失踪した「ノラ」への思いや、その後に飼う「クルツ」への愛情が素直に書き連ねられている。簡単に言うと、失踪した「ノラ早く返ってきてくれ。」「クルツよ、元気になってくれ」と百閧ェ毎日嘆く話。約一ヶ月お風呂に入れなくなるくらい嘆きます。ちょっと面白い。ただ、愛猫がいる、愛犬がいる人には「そうそう、そんな気持ちになる! 面白いわけない! 」と共感しながら読める作品でしょう。

  11『物乞う仏陀』 石井 光太(星陵図書館にあり)

今、世界で起こっていることを、知ってるか?
石井光太が書くものは衝撃的なタイトルの作品が多く、内容も私たちが知り得ない世界の現実がありのままに記されており、驚くものばかりだ。でも、嫌な感じはしない。本書は著者のデビュー作であり、著者がアジア諸国を訪れ、各国の貧しい障害者(物乞い)を中心に取材をした現実がありのままに記されている。貧しくて物乞いをする障害者と聞けば、私達は「暗い」イメージを想像してしまいがちだろう。でも決してそうではないらしい。底抜けに陽気な人がたくさんいる。もちろん救いようのない、やりきれないことが現実として起こってもいるが。

    12『七夜物語()()』川上 弘美 (星陵図書館にあり)

『七夜物語』は少年少女の冒険物語。二人がひょんなことから不思議な世界へ足を踏み入れてしまうことから始まる冒険だ。ありきたりかもしれないけど、少年少女の成長が見られる、ドキドキよりも、ほっこりする小説です。

ちなみに、川上弘美の小説は「うそばなし」ばかり。自身も「ほんとうにあったことを書こうとすると、手がこおりついたようになってしまいます。(略)自分の書く小説をわたしはひそかに『うそばなし』と呼んでいます。」(『蛇を踏む』より)と言っています。「うそ」の話なんて読みたくない!と思うかもしれないけど、うその世界で遊ぶ楽しさを川上弘美から学べるかもしれませんよ。

  13『絶対貧困〜世界リアル貧困学講義』石井 光太 (星陵図書館にあり)

世界の人口は約六十七億人(本書より)。
一日一ドル以下で生活している人は十二億人以上。
一日二ドル以下で生活している人は三十億人以上。
つまり世界の半数の人たちが一日二ドル以下で暮らしているということ。
「絶対貧困」と呼ばれる人々の生活を想像できますか? 本書では、過酷な状況にあるスラム、路上生活者、売春の現状がリアルに伝わってくる。しかし、その語り口調は軽快で、読みやすい。著者が直接語りかけてくるような感じ。本書を読み、世界のリアルな現状を知るきっかけにしてみては。

  14『工場』小山田 浩子 (星陵図書館にあり)

新潮新人賞受賞作品。ここに収録されている「工場」「いこぼれのむし」は新しい試みの小説ではないかと思う。会話文なのに改行はなく、主人公がいない。登場人物がそれぞれの視点で「工場」や働く人を語る。その語り方は辛辣だったり辛気くさかったりするけど、それが面白い。時系列が前後したり、語り手が急に変わったり、読みながら混乱することもあるけど一度試してみては。

何年やっても子供にはよくわからなくて不気味なところがある。「ネコみたーい」女児がコケを撫でながら言った。ネコみたいならネコを撫でておればよいしネコには似ていない。 (本書より・コケの専門家、古笛の本音)