15〜29

  15『小暮写眞館』 宮部 みゆき
 「小暮写眞館」は小暮さんが店番している。小暮さんはもうこの世にはいないけれど。

 少し疲れた時に読んでみてはどうか。のびのびと学校生活を送る高校生。いそうでいない個性的でい、ちょっといい感じの登場人物が織りなす心温まる小説だ。『小暮写眞館』は花菱一家が、下写真屋さんの建物を購入し、自宅として住むところから始まる。自宅が元写真屋さんだったことから、「心霊写真」らしきものを託され、花菱家長男はその真相究明に奔走することになる。ただ、心霊写真の真相究明物語になっていないのがこの小説の面白いところ。ぜひその面白さを体感してもらいたい。
   16『想像ラジオ』いとう せいこう
 やわらかな印象を与える装丁と軽い語り。死者の声をこんなにも軽やかに代弁していいのかとも思ってしまう。でも筆者の言葉に触れ、感じることが出来れば、そんな思いはなくなる。東日本大震災を、ニュースやドキュメントとは違った角度からとらえた話です。

「亡くなった人はこの世にはいない。すぐ忘れて自分の人生を生きるべきだ。まったくそうだ。いつまでもとらわれていたら生き残った人の時間も奪われてしまう。でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に歩くんじゃないのか。死者と共に」(本書より)
   17『チェルノブイリの祈り ―未来の物語―』アベトラーナ・アレクシエービッチ(松本妙子 訳)
1986年4月26日、午前1時23分にチェルノブイリ原発第四号炉の原子炉と建屋が崩壊した。この日、この時から汚染地域に住む人々は「チェルノブイリ人」になった。―本書では「チェルノブイリ」に関わった(関わらざるを得なかった)人々が語った生の言葉に触れることができる。今、我々は「フクシマ」を経験し、向き合っていかなければならない状況にある。私達は「チェルノブイリ」をどうよ読み、どうかんじるのだろうか。

2015年、ノーベル文学賞受賞。
   18『マクベス』 ウィリアム・シェイクスピア
 主人公マクベスが魔女の予言を言葉通りに信じすぎたがために、身を滅ぼすという話。マクベスが魔女の予言に翻弄され、失墜していくことが「悲劇」と呼ばれるのだと思う。
 『マクベス』は『ハムレット』『オセロー』『リア王』と並ぶシェイクスピアの四代悲劇の一つだ。その中でも読みやすくストーリーが分かり易く、短い作品なのでシェイクスピアを初めて読もうと思う人にはお勧め。教養として超有名劇作家シェイクスピアを読むのもいいいのでは。
   19『名もなき毒』宮部 みゆき

 「人が住まう限り、そこには毒が入り込む。なぜなら、我々人間が毒なのだから。」
不条理な社会を生きている私たちは、名もなき個々の「毒」を抱えて生きている。その「毒」がどう他者を傷つけ、自分を傷つけるかが問題だ。「毒」になるもの…人を恐怖に陥れ、不安にさせるもの、それいは名がないからこそ怖い。「毒」がどのようなものか分からなければ、対処の仕方もない。人は誰でも「毒」を抱えていると実感し、「毒」と向き合うことが出来る人は「名もなき毒」に翻弄されることはないのかも。

★これを読む前にまず、宮部みゆき『誰か』を。
  20『誰か Somebody』宮部 みゆき
 主人公・杉村三郎がひょんなことからある事件の謎に迫り、事件に関わった人々の心の闇に迫る姿を描いた作品。
 推理小説なんだろうが、主人公自信が事件を解決へ導くわけではない。そこが面白い。関係者の心のひっかかりを取り除くことが杉村三郎に託されていて、彼の目線で人を見る感覚が面白い。

 誰かに寄り添いながら事に対処していく主人公は人間味あふれる誠実な家族思いの会社員。ただ、こんな人gいるといいなぁと思う一方で、どこか現実離れをしている人物像な気がしないでもない。  ※宮部みゆき『名もなき毒』を読む前に、まずはこちらを。
  21『モンスター』百田 尚樹
 様々なジャンルの作品を書くことで知られている百田直樹。今回は美容整形美女小説。美容整形に至るまで「モンスター」と呼ばれた和子の苦悩と、整形後、美女として生きる美帆の葛藤が非常に分かり易く描かれている。
 
 作者は映画『永遠の0』の原作者として知られている。長編小説が多いがスイスイ読める作品ばかりなので、ぜひ手に取ってみてほしい。
  22『オレたちバブル入行組』池井戸 潤
 「倍返し!」で流行語大賞を受賞したテレビドラマ「半沢直樹」の原作本。ストーリーはもう説明する必要はないでしょう。ドラマを見たことがある人も、ない人も抵抗なく読める作品。ドラマを知っている人は、その違いを見つけてみるのも楽しいかも。決定的に異なる部分を知り、がっかりする人もいるかもしれないけれど、個人的には読了後、スッキリしました。
  23『猫を抱いて象と泳ぐ』小川 洋子
 「チェスの海は広」く、「チェスの海は坊やが思うよりずっと深い」。その海に魅了され、その流れに身を任せた世にも奇妙な“チェス指し”の話。
 チェスをしたことがなくても、チェスの可能性やその美しさを感じることができると思う。タイトルの「猫」と「象」と少年の関係にも注目を。
  24『レキシントンの幽霊』村上 春樹
 様々な短編が収録されていて、様々な舞台で様々な登場人物が様々なストーリーを展開しているが、その中で何か共通点を見つけるとしたら《孤独》だろうかと思う。家族がいたのに《孤独》になる。一人ではないのに心は《孤独》感でいっぱい。静かな寂しさが漂っているが、なぜか引き込まれてしまう。

★本書は1996年に刊行された村上春樹の短編集。収録されている「レキシントンの幽霊」、「七番目の男」は高校の教科書にも採用され、「沈黙」はセンター演習問題集にも採用されています。
25『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール
 マチルダは天才少女。三歳になる前に字が読めるようになり、四歳で大人向けの小説を読むようになり、掛け算もできた。しかしこれは誰かに教わったわけではない。
 彼女の両親は彼女の才能に全く気付かず、…というか、マチルダに関心がなく、マチルダを「ただのおしゃべり」ペテン師(ずるして計算しているから正解すると考えている)」と言う。そんな両親や校長先生への天才マチルダの仕返しは(絶対的権力への痛切な一打…といった意味もありそうで…)見事!!面白いので、ぜひ一読を。
26『ガラスの大エレベーター』ロアルド・ダール
 ジョニー・デップの主演映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作『チョコレート工場の秘密』(星陵図書館にあり)の続編。あのガラスのエレベーターで繰り広げられる大冒険物語。エレベーターはどこまで行ってしまうのか?!彼らは無地に帰還できるのか?!
  27『漂砂のうたう』木内 昇
 第144回直木賞受賞作品。明治10年頃の東京・本郷(東大周辺)にあった根津遊郭を舞台とし、花魁やそこで働く男たちの姿が描かれる。時代が大きく変わる只中にいる人々の苦悩や閉塞感が見事に描かれる。
  28『吉原手引草』松井 今朝子

 第137回直木賞受賞作品。吉原遊郭を舞台とし、吉原一と言われた花魁「葛城」が疾走した真相に迫っていくミステリー小説。葛城はど
のような女性だったのか、なぜ失踪したのか。関係者がそれぞれの視点で様々に語るが、全ては語ろうとはしない。なんだかもどかしい思いでページをめくるのが結構楽しかったりする。
   29『火の山 山猿記(上)(下)』津島 佑子
 太宰治はどんな人? この作品を読めば、あなたの太宰治のイメージが変わるかもしれない。

 本書は太宰治の次女、津島佑子が母方の実家である石原家をモデルとし、戦前、戦中、戦後という激動の時代にあった「家」の繁栄と衰退を描いた作品だ。祖父の「源一郎」は地質学者で、特に「家」から臨む富士山を「火の山」とし、富士山に寄り添いながら生きる「有森家」を手紙・日記・記録を織り交ぜながら回想している。
 中でも生前の太宰治(作中「杉冬吾」)の記録が新鮮だ。太宰は周知の通り、自殺未遂を繰り返し、ついには妻子を残して愛人と心中し亡くなる。家族の苦労・苦悩は計り知れないものだと想像できるが、本作品を見る限り、決して苦労ばかりではなかったことがわかる。また、戦中・戦後の日本人の生活や「家」の考え方もわかる。